手紙
イーヴィーの元を訪れる決心をしたクラーラだったが、いざそうするとなると困難なことに気づいた。
噂の的である間はなるべく家に引きこもっていること、特にイーヴィーとその家族には顔を合わさないようにと、マイルズから言われている。
そのため、ノースモア家には公爵家から派遣された護衛兼見張りが駐在している。
出かけるにしても、行き先を告げてその護衛を伴わなくてはいけない。
イーヴィーのところへ行きたいと言おうものなら、その時点で止められるだろう。
さてどうしたものか。直接会えないなら手紙を書こうかとクラーラが考えているところへ、姉のライラが久しぶりに帰ってきた。
クラーラの電撃婚約の噂がライラの耳にも入り、飛んで帰ってきたのだ。
クラーラから話の経緯を聞いたライラは、なるほどねぇと唸った。
「それじゃイーヴィーは、クラーラを恨んでいるわね。婚約者を奪った親友を。会わないほうがいいんじゃない」
「でも誤解よ。結果的に何故かそうなってしまったけど、マイルズ様が今も愛しているのはイーヴィーだし、イーヴィーだって。愛し合っている2人が喧嘩別れするなんて……。イーヴィーにもう一度会って、ちゃんと話したいの」
一言の弁解もできないまま、イーヴィーと会えなくなってしまった。
せめて言い訳をさせてほしいとクラーラは思った。
マイルズは自分があえて悪役になってイーヴィーと別れることで、イーヴィーの幸せに貢献できると思っているようだが、クラーラは違う。
イーヴィーとずっと仲良くありたいと思っていたのに。
その気持ちを切々と訴えると、ライラは頷いた。
「分かったわ。一肌脱ごうじゃないの。イーヴィーに直接連絡を取るよりも、そのお兄さんを介した方が良さそうね。チャーリーづてに、うちからとは分からないように、ロバート卿に手紙を渡すわ。まだ王都にいるんでしょう」
クラーラはぱっと顔を明るくした。
「ありがとう、ライラ! さっそく手紙を書くわ。ロバートさんならイーヴィーのそばにいると思うわ」
急いで手紙を書き終え、ライラに託した。
その数日後に、チャーリーとライラを介してロバートから返事が届いた。
クラーラは緊張して開封し、それを一読した。
手紙には意外なことが書かれていた。
ありがとうございます、事情はよく分かりました、一度話し合いの場を持ちたいとイーヴィーも申しています。
僕とマイルズ様も同席し、4人でお会いできたらと思います。
イーヴィーと会える!
話を聞いてもらえるんだわ、とクラーラは高揚した。
手紙の先はこう続いた。
ただし、マイルズ様がすんなりと話し合いの場に着いてくださるとは思えません。
ですので、別件を装ってマイルズ様をお誘い出しくださればと思います。
その後のことは全て僕が責任を持ちます。
そして文末に、待ち合わせの日と場所が指定してあった。
王都にある貸し画廊を1日貸し切りにして、目立たないように待っているとのことだった。
マイルズ様とロバートさんも一緒に、4人で話し合いの場に?
随分思いきった提案だが、確かに最終的にはマイルズとイーヴィーの話し合いが必要だ。
そう何度も機会はない。
イーヴィーは間もなく王都を出て行ってしまう。
こじらせたものはなるべく早くほどかなくては、がんじがらめになってしまう。
クラーラはロバートの提案に乗り、マイルズを画廊に誘い出すことにした。