表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

決意

しばらく貴族学園への登園は控えるよう、マイルズから申し入れがあった。


今行けば、噂の的であるし、イーヴィーと顔を合わせることも避けてほしいと。

噂の方はしばらく好きに騒がせた後に、適切な対応をするとマイルズは約束した。


「とにかく君が不快な思いをしなくて済むようにしたいからね」


イーヴィーは学園を転出して、故郷へ戻るらしい。

その手続きが終わって、イーヴィーが王都から出て行けば、もう顔を合わせることもなく安心だそうだ。


そう語るマイルズが一番憂いのある表情をしている。

連日クラーラの様子伺いにやって来るマイルズだが、気づくと溜め息をついている。


今日は袖口のカフスボタンを指先で弄りながら、どこか遠いところへ意識を飛ばしている様子だ。

そのカフスボタンはマイルズの瞳と同じ色の、深緑のエメラルドで作られている。


クラーラはすぐに気づいた。

それはイーヴィーが見立てた物だろう。

以前マイルズにイヤリングを買ってもらった際に、マイルズには同じ宝石でお揃いのデザインのカフスボタンを薦めたと、イーヴィーから聞いたことがあった。


めちゃくちゃ引きずってるじゃないの、とクラーラは思った。

それもそうだ、マイルズはイーヴィーのことを嫌いになって別れたのではない。


愛しているからこそ、イーヴィーには『真実の愛』を掴んで幸せになってほしいと願い、悪役になって身を引いたのだ。


なんっって独りよがりなのかしらとクラーラは呆れた。

イーヴィーが兄ロバートよりもマイルズに惚れていることは、マイルズ以外の目には明白だ。

しかし誰が何と言うと、『イーヴィーはロバートの方を愛している』と思い込んでいる。


この状況をなんとか打破しなくては、とクラーラは抜け殻のようになっているマイルズを見て強く決心した。


マイルズはクラーラに紳士的に接したが、それは義務的で、そうしなくてはならないから、そう振るまっているに過ぎない。


「イーヴィーの顔が好きなんだ!」と息切れするまで惚気ていたマイルズを知っているだけに、その落差は身に沁みた。

あの満面の笑みで、マイルズがクラーラのことを語る未来は絶対に来ないだろう。


それが悔しいわけでも悲しいわけでもない。

クラーラはマイルズに愛されることを求めていないし、『愛のない好条件の結婚』はクラーラの希望通りのはずだった。

だけどマイルズは違う。

マイルズの『真実の愛』はイーヴィーだ。


せっかく相思相愛だというのに、みすみすそれを手放そうだなんて、大馬鹿だと思う。

心から愛する人がいて、相手からも愛されている。そんな幸福は稀なのに、自ら捨ててしまうなんて贅沢の極みだ。


そしてイーヴィー、イーヴィーのことが気になる。

毎日会えるマイルズのことよりも、会えなくなったイーヴィーのことが気がかりだった。

ちゃんと眠れているのか、食事はできているのか、目は泣き腫れていないか、心配が尽きない。

ロバートがそばにいるので、その辺りのフォローはきっときちんとしてくれているだろう。

そう思うと少し安心できた。


マイルズはいつも夜にやって来る。

よし、明日の日中にイーヴィーの叔父宅を訪ねようとクラーラは決心した。


マイルズの話では、イーヴィーもあれからずっと学園を休んでいて、すでに引っ越しの準備に入っているそうだ。

逃げるように貴族学園と王都から出ていかざるを得ないのは、公爵家から圧力もかかっているのかもしれない。


余計なことを撒き散らさずに静かに去ること、それを条件に高額な慰謝料を支払ったのだろうか。

充分すぎる慰謝料を払った、とマイルズが言っていた。

その高値と公爵家からの圧力で、イーヴィーもマイルズの本気度を理解したのかもしれない。


どれほどショックだったろうと、イーヴィーの心境に思いを馳せ、クラーラは胸を痛めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ