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略奪愛

『悪い条件じゃない』


マイルズは有力な公爵家の嫡男だ。領地は王都から近いところにある。

一人っ子のため兄弟はおらず、爵位継承や遺産相続で揉める心配も少ない。


世間一般的に見て、これだけ条件の良い結婚相手はそうそういない。

それに加えて、マイルズは高身長で美男子だ。切れ長の新緑の目は鋭さがあるが、そのストイックさと圧倒的カースト上位のオーラがたまらなく素敵だと人気だった。


そのマイルズが唯一デレていたイーヴィーと、イーヴィーのために別れ、クラーラの形だけの夫に「喜んでなる」と言うのだ。


「で、でも……跡取りの子供が必要ですよね。マイルズ様はお一人っ子ですし……」


「ああ。別に愛はなくとも子供はできる。無理なら他の手を考える。先の心配は、君はしなくていい。私の問題だ、私が何とかする」


ピシャリと言ったマイルズに目をみはった。

2人の問題ではないと。一緒に考えることも求めない、本当に『お飾りの妻』でいいようだ。


「まあ、君だけでは決められないだろうから、帰ったらノースモア伯爵とよく話すといい。今朝使いを出して、婚約の申し入れをしたところだ」


「えっ……」


「私の父には先に了承を得ているが、正式に決定する前に勝手に公表してしまったから、少々騒ぎになっている。が、今さら反対はしないだろう。話はもう広まっているしね」


「そ、そんな……」


「あの場でハッキリ否定しなかった君にも責任がある」


否定ならちゃんとした。

ただクラーラの声があまりに弱くて、かき消されてしまったのだ。

気を失うことであの場から逃げたはいいが、事態はさらに思わぬ方へ転がっていく。


「……今は何時でしょうか」


「昼前だな。昼食をとって家へ送ろうか」


「いえ、すぐに帰ります」


「貧血気味だと言ったろう。何か口にした方がいい。また倒れてしまわないか心配だ。さっきの侍女を呼び戻すから、身支度するかい。ああ、何も急いで帰れと言ってるわけじゃないからね。連泊してくれたっていい」


マイルズの口調に確かな労りを感じて、クラーラははっとした。

まるで敵に対峙するような警戒心剥き出しで話していたが、倒れたクラーラをここへ運び、医者を手配したり実家とやり取りしてくれたのは、マイルズなのだ。


「すみません、ご迷惑おかけして、お世話になりました」


「嫌だな、水臭い。もうじき婚約する仲なんだから、気にしないで」


それからクラーラは気もそぞろに食事をして、侍女を伴って帰宅した。

伯爵家ではちょうどマイルズが寄こした使者が帰ったところだった。


仕事を早めて帰宅していたクラーラの父が、クラーラを興奮気味に迎え入れた。


「クラーラ! びっくりしたぞ、バンバリー公爵のご令息と婚約だなんて、腰を抜かすかと思ったわい。いやぁめでたいな! 今夜は祝杯だ」


「お帰りなさいクラーラ、体は大丈夫なの? 倒れたんでしょう、大事なパーティーで」


母親はかろうじて体調を心配してくれたが、それよりも喜びが勝っているのは表情と声色で分かった。

両親共に舞い上がっている。


「私もびっくりしすぎて……婚約はまだ申し込みをいただいただけで、返事はしていません」


「さっき私がしたよ。何を迷うことがある。見合いで決まらなかったのも、このご縁があったからだな。慌てず構えていたのが功を奏したな」


うんうんと満足気に頷く父親にクラーラは目を剥いた。

すでに家族と話し合う余地はなかった。

もう返事をしてしまった、と。


貴族家で家長の決定は絶対だ。

つい先日、ライオン伯爵からのプロポーズに悩んだ際、いっそ父親が決めてくれればいいのにと思ったことを思い出した。


だけどこれは……

だってマイルズはつい昨夜まで、イーヴィーの婚約者だったのだ。

これまでクラーラはマイルズと特に親しくもなく、マイルズとイーヴィーの双方から惚気話を聞かされる程度の関係だった。


そこからの、いきなり婚約!?

これは世間一般でいう、『略奪愛』というやつでは。しかも親友からの略奪。


地味で冴えない男嫌いのクラーラには、無縁の出来事に思える。が、目の前で起こっている全て現実だ。

クラーラは改めて愕然とした。


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