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愛のないプロポーズ

目覚めた瞬間、クラーラはあれが全部夢だったら良いのにと願った。


傍らにいたクラーラ付きの侍女の顔を見た瞬間ホッとしたが、目覚めた場所が公爵邸内だと分かり焦った。


「マイルズ様は……」


「説明対応に追われているようですが、また戻ると仰っていました。クラーラ様がお目覚めになられたと、誰かに知らせて参りますね。お加減は? 入り用なものはございますか? お水はそこに。お飲みになりますか?」


サイドテーブルに置いてあるコップに注いだ水を手渡され、喉がカサカサだったクラーラはとりあえずそれを飲んだ。


侍女が人を呼びに部屋を出ると、マイルズと鉢合わせた。


「あ、マイルズ様。クラーラ様がお気づきになりました」


「そうか、それは良かった」


マイルズは顔つきをぱっと明るくした。


「申し訳ないが、少し席を外してもらえないかな。2人で大事な話をする。向こうにいるうちのメイドにそう伝えて、待っていてくれ」


「はい、ではクラーラ様に何かあればすぐお呼びになってくださいませ。失礼いたします」


侍女がやけに早く戻って来たなと思ったら、マイルズで、クラーラは一瞬身をこわばらせた。

卒倒した元凶であり、早くもトラウマ化しているが、マイルズに言いたいことは沢山ある。


「ま、マイルズ様、あれは、どういうことですか」


「突然ぶっ倒れるからびっくりしたよ。君、見かけどおり、痩せていて軽いね。医者が貧血気味だろうって。食べれるようなら何か持って来させるよ」


「いえ、それよりも、わ、私がマイルズ様の新しい恋人だなんて、なんであのような嘘を吐かれたんですか。ここ困ります、困って倒れたんです」


あの大惨事となったパーティーの幕引けを思い出すと、再びショックで目眩がした。


「あれは嘘だったと、今すぐ発言を撤回なさってください。いま……今はあれからどのくらい経って」


はっとした。カーテン越しに差す日差しが明るい。

もう一夜が明けてしまったのか。絶望だ。


「撤回? しないよ。私はイーヴィーと婚約破棄し、新たに君と婚約を交わしたい」


「だからどうして、私なんですか。相談するうちに好きになった、なんて絶対に嘘じゃないですか」


「ああ。けどああでも言わないと、イーヴィーが納得しそうになかったからね。私が悪者になって婚約を破棄すれば、イーヴィーは真実の愛を生きられる」


クラーラは唖然とした。

まさか、イーヴィーとロバートをくっつけるために、身を引いたと言うのか。


「……え、は、えっ……イーヴィーの話、ちゃんと聞いてました? イーヴィーはお兄さんよりマイルズ様のことが好きだって、声を大にして言ってましたよね。何度も、最後は半狂乱で……ちゃんと見てました?」


「何を言う、私は誰よりもイーヴィーを注意深く見ていたさ。昨夜のパーティーの間中、私と居てもイーヴィーはずっと兄の方を気にしていた。ロバート卿と君が姿をくらませると、ずっと気にしてソワソワしていた」


そこなのか。どうして見えにくものは見つけて、明らかに見えているものは見ないのか。

クラーラは歯がゆさと不安を募らせた。

これは相当こじらせている。


「それは……実は、イーヴィーは私にロバート卿を紹介してくれたんです。婚約者候補として。その手前、気にかけていたのです」


「へえ、それは初耳だが、ロバート卿と本当の兄妹じゃないと知らなかったからだよね? 実の兄妹だから結ばれることができない、だから諦めるために君に紹介した。違うかな?」


違わない。一瞬返事に窮したクラーラに、


「あの2人にはもう障害がなくなった。後は勝手に幸せになるさ」


とマイルズは投げやり気味に言った。

なるほど、マイルズの偏った考えは分かった。

しかし、そのために巻き添えを食らったクラーラの被害は甚大だ。


「でっ、それで、ご自分が悪者になってイーヴィーと婚約破棄するために、嘘をついて私と婚約するって、わ、私は困ります。わ、私の同意も何もなく、勝手な発表をされて、」


なんてことをしてくれたのだ!


マイルズのことは元から苦手だ。威圧感があって怖いと思っていた。

しかし、イーヴィーへの溺愛ぶりを炸裂させて惚気を語るマイルズに初めて親近感を覚え、案外気さくな人柄なのかも、と思い始めていたのに。


「それは本当に申し訳ない。あの場ですぐに事情を呑み込んでくれそう女性は、見渡した限り君しかいなかった。しかし、良い考えだと思っている。君は婚活中で、難航しているそうだね。男嫌いで、体裁だけの結婚ができれば良いと考えている。そうイーヴィーに聞いて知ってるよ。じゃあ、私で良くないか?」


「え?」


「私は君を愛することはない。喜んで、形だけの夫になるよ。今回の騒動に巻き込んだお詫びとして、次期公爵夫人の座に収まってくれないか。悪い条件じゃないはずだ」

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