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卒倒

クラーラは頭が真っ白になった。

それからのことは、間近で起こっているのにまるで遠いところで起きている出来事のようだった。


マイルズがクラーラを紹介し終えた瞬間、周囲から大きなどよめきが沸いた。

壇上からマイルズとクラーラを見ていたイーヴィーが降りてくる。


そして怒り狂った様子で向かって来るのをロバートが後ろから抱き止めた。

それでも暴れ、ロバートを振り払おうとしているので、警備が飛んできた。


会場の外に連れ出されるイーヴィーとそれに付き添うロバートを見送ったマイルズが、隣で蒼白になっているクラーラには目もくれず、高らかに言った。


「皆様、お見苦しいところを見せて申し訳ありません。でも、これで今日という区切りの日に新たな出発ができたこと、嬉しく思います。では……これにてパーティーはお開きとさせていただいて、」


とここで初めてクラーラを見て、


「行こうか」


と優雅な作り笑いをした。

有無を言わせない圧がかかったが、クラーラはここで何としても反論しなくては、と必死に思った。


「まっ、ま…待ってください、どうしてこんな嘘を、てっ、訂正してください」


気道がきゅうと絞られたように狭まり、呼吸が苦しい。水から出された金魚のように必死で口を動かすも、絞り出せたのは、蚊のなくようなか細い声だった。

周りのざわつきに負けて、すぐ隣のマイルズ以外の耳には届かなかった。


それでもマイルズに届けばいい。マイルズが大きな声で訂正してくれれば、まだ間に合う。

マイルズは他の者には分からない程度の迷惑そうな表情を浮かべ、


「とりあえず外へ」


と強めにクラーラの腕を取った。

ギリギリの気持ちで何とかその場に立っていたクラーラは、それでもう限界だった。

悲鳴を上げる余裕もなく、ひっと息を呑みこんでばったりと意識を失ってしまった。


ぐらりと倒れこんできたクラーラをマイルズは咄嗟に受け止めた。

それからひょいとクラーラを抱えると、お姫さま抱っこをした。

囃し立てるような歓声が上がった。


「繊細なクラーラ嬢がお疲れのようですので、お先に失礼します」


クラーラが運びこまれたのは、公爵家の客人用の寝室だった。

公爵家のお抱え医が呼ばれ、「気を失っているだけだ」と診断された。


「元々貧血気味でしょう。目が覚められたら、血肉となる栄養のあるものを」


伯爵令嬢の身で栄養失調とはどういうことだとマイルズは訝しく思った。


ノースモア伯爵家は娘に十分な食事を与えられないほど、実は貧乏なのか?

いや、それなら貴族学園には通えないし、今日のようなパーティーにも来られない。

クラーラが着ていた若草色のドレスは地味だが生地は上等だし、胸元のブローチは相当良い品だ。


と、今は診察に際し寝間着に着替えさせられたクラーラの寝顔を眺め、マイルズは思った。


本当に姉のライラとはまるで似ていないな。

ノースモア家の姉妹もひょっとして血が繋がっていないとか?

いや、そんなことがそうそうあってたまるか。


マイルズはしばらくクラーラの寝顔を見ていたが、使用人が慌てた様子で呼びに来た。

今日のことが離れた領地にいる父親の耳に入るのも時間の問題ゆえ、早急に対応に回れというお目付け役からの指示だ。


バンバリー公爵家内の対応も勿論だが、ノースモア家への対応も急ぐ。

クラーラ付きの従者は邸内に留まっているが、先に帰らせたノースモア家の馬車の御者が今頃先方へ事情説明をしているだろう。


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