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大発表

しかし、事態は一転した。

宴もたけなわとなった頃、壇上でマイルズのスピーチが始まった。


招待客への謝辞と18歳になった抱負を語る堂々としたスピーチに、皆は注目し、聴き入った。

クラーラとロバートも同様だった。


「――最後に愛しの君、イーヴィーへ。イーヴィー、ここに」


とマイルズが言った。


打ち合わせはしていないようだ。

指名を受けたイーヴィーが小さく悲鳴を上げて驚き、皆の視線を一身に浴びながら、照れた様子で壇上に上がった。


イーヴィーと向き合ったマイルズが、コホンと咳払いした。クールな顔つきは変えないが、こちらも照れているようだ。


「イーヴィー、」と神妙な口調で呼びかけた。

愛しているよ、これからもよろしくね、そういう類の言葉が後に続くのだろうと、誰しもが思っただろう。


「君との婚約は破棄する」


クラーラは耳を疑った。

会場中が静まり返ったあと、ざわめきが起こった。


「……えっ、なっ、何を仰るんですか!?」


一瞬固まったイーヴィーが、慌てた声をだした。


「じょっ、冗談ですよね?」


慌ててはいるが、場を和ませる愛嬌のある声だ。

なんだ悪い冗談かと皆が思いかけたが、それを覆したのはやはりマイルズだった。


「いや、本気だ」


「どどどうしてですか、嫌ですっ、絶対に」


イーヴィーが間髪入れず言った。


「先日、君にロバート卿との関係を確認したね。君は実の兄であるロバート卿を愛していることを認めた。しかし、実の兄妹である以上どうにもならないことだと、それが君の言い分だったね」


マイルズの言葉に、イーヴィーは顔を曇らせた。


「またそれを、何もこのような場で……それに少しニュアンスが違われます。確かに私は兄のことを愛していますが、それは家族として、です。それに実の兄妹でどうにもならないのは、そのとおりです。それでなぜ婚約破棄? ありえません」


聞いているクラーラはヒヤヒヤした。

思ったことを素直に口にするイーヴィーは、言葉に忖度がない。

小さくて愛くるしい、小型犬のような愛嬌をしているが、気は強い。


それで、品がなくてガサツだと他の女生徒から悪く言われることもあったが、そこが他の貴族令嬢と違っていて面白いのだと、マイルズは評価していた。


しかし、この場で喧嘩腰はまずい。


「いや」


とマイルズの方は落ち着き払って答えた。


「ありえなく、ない。実はあの後もさらに私は君たち兄妹のことを調べた。そして、とある真実にたどり着いた。君とロバート卿は、血の繋がった兄妹ではない。君は、父親のリマー子爵の親友夫婦の一人娘で、夫婦の事故死により、生後10ヶ月のときに子爵家へ引き取られた。よって、ロバート卿とは一滴も血の繋がりがない」


「う、嘘よ、そんな……そんなの嘘」


イーヴィーは、信じられないという顔でマイルズを見て、わなわなと唇を震わせた。


「どうせくだらない噂でしょ、信じられない、そんなの信じるなんて!」


「嘘じゃない、ちゃんと出生の記録を確認して調べた。それを見たいと言うなら、君も見ればいい。おめでとう。これで愛し合う君たちは結婚できる。実の兄妹じゃないんだから。どうりで似ていないわけだ」


「冗談じゃないわ。今さら血が繋がってないくらいで、家族をやめられないわ。私が子爵家の本当の娘じゃない?……そんなの信じないわ。それに私は、あなたのことを本当に愛してるのよ、心から。だから今猛烈に腹が立ってるの」


「じゃあいいじゃないか、婚約破棄で。了承してくれ。私の決意は固い」


周囲は2人の言い合いに呆然としていたが、後方から1人の男が壇上に向かって歩いてきた。

近くまで来て、「マイルズ様」と声を上げたのは渦中のロバートだった。


「私からもお願い申し上げます。妹のイーヴィーは、本当にマイルズ様をお慕いしております。どうかここは、性急なご決断は思いとどまりください。改めて話し合いの場をいただきたく存じます」


壇上を見上げ、その場に片膝を着いてロバートは申し立てた。

先ほどまでロバートの隣にいたクラーラは、ハラハラしながら事の成り行きを見守った。


「いや、もう決めたこと」とマイルズが言い捨てた。


マイルズはマイルズで意固地だった。

そもそもイーヴィーの言う通り、わざわざこの場でこれを発表する必要はあったのだろうか。


大勢の招待客の面前ではく、当事者の2人、いや3人で話し合えば良かったのに、とクラーラは恨めしく思った。


イーヴィーが子爵夫妻の本当の娘ではないと、何も大勢の他人の前で大発表しなくても良かったのに。

人権侵害だ、ひどい。有力な公爵家ご令息の前では、田舎の子爵家には人権がないというのか。


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