パーティーにて
ロバートに今度会ったら、薔薇園でのことを謝ろうとクラーラは胸に誓った。
ロバートの話を聞かず、一方的に非難して追い返してしまったことを。
でもイーヴィーの話の通りなら、ロバートさんもそう言ってくれれば良かったのに、どうして反論しなかったのだろう。
クラーラがあまりに怒っていて、取りつく島がなかったからかもしれない。
勝手に決めつけて、申し訳ないことをしてしまったとクラーラは反省した。
その反省の意も込めて、マイルズの誕生日パーティーに招待されたクラーラは、ドレスの胸元に例のデイジーのブローチを着けて行った。
イーヴィーに頼まれたこと――ロバートと仲良くしてそれをマイルズに見せつける、ということができる自信はない。
イーヴィーと約束はしなかった。
『イーヴィーに頼まれたから』ではなく、ロバートに心から謝って、自然に会話できる仲に戻れたら良いなと思う。
そう意気込むとまた胃が痛くなるくらい緊張したが、姿見に映る衣装を見て、自身を勇気づけた。
大丈夫、似合ってるわ。
ロバートさんが「クラーラさんのために作った」と言ったこのブローチ。
大輪のデイジーが映えるよう、若草色のドレスを選んだ。野に咲く花のように。
『デイジーの花言葉、知っていますか?
希望。平和。美人。純潔。あなたと同じ気持ち、です』
ロバートの言葉がよみがえった。
『クラーラさん、好きです。僕と結婚してください』
あの愛の告白とプロポーズはまさか本気だったんだろうか?
イーヴィーにお願いされて吐いた台詞だと思い、真剣に取り合わなかったのだ。
もしあれが真剣なプロポーズであったのなら……
いや、もうこれ以上考えるのはよそう。
先回りしてあれこれ考えては、行動に移す前に疲れてしまう。クラーラの悪い癖だ。
とりあえずパーティーに出て、ロバートに会わなくては、始まりも終わりもしない。
「マイルズ様、18歳のお誕生日、おめでとうございます。本日はご招待いただき、ありがとうございます」
練習してきた挨拶を告げると、主役のマイルズは晴れやかな笑顔を見せた。
ばしっと正装でキメていて、いつも以上に美貌が際立っている。
「ありがとう、来てくれて嬉しいよ。存分に楽しんでね」
ちなみにプレゼントは受付所で記名して、係へ渡した。
一気に大量に集まるため、後でまとめて開封するのだ。大きな鉢植えの花などは、開けずともそれだとすぐ分かった。
クラーラは無難に食器を贈った。名高い工房で作られた、金銀の繊細な装飾が施された皿だ。
マイルズに挨拶を済ませると、すぐにイーヴィーが飛んできた。
水色のふわっと膨らみを帯びたドレスは可愛らしく、デコルテの開き具合はドキリとするくらい色っぽい。
ダイヤモンドが連なったネックレスは、マイルズからの贈り物だろう。
その輝きよりも眩しい笑顔を見せて、
「ありがとう、クラーラ。来てくれて嬉しいわ」
と言った。
「来て。あっちで飲み物を貰ってきましょう」
手を引かれて行った先には、ロバートがいた。
飲み物係の男性と談笑している。
やって来たイーヴィーとクラーラに気づくと会話を止め、
「御無沙汰しておりました、お元気でしたか?」
と穏やかな笑みを浮かべた。
クラーラは一瞬硬直してしまった。ロバートに会ったらこう挨拶をして、こう言おうと何度もイメージトレーニングしていたのに、いざとなるとさっと出てこない。
「……あ、はい。ロバートさんは……」
「元気ですよ。あ、そのブローチ……思ったとおり、よくお似合いです」
ロバートが言うといち早くイーヴィーが反応した。
「あっ、それがロバートがプレゼントしたっていうブローチ? へえ可愛い、いいな〜! 私も欲しいわ」
と素直に口に出してから、はっとした様子で
「……っと、後は若いお2人で、ごゆっくり。私はマイルズ様のところへ戻るわね。あ、ワインを頂くわ」
飲み物係からワインを受け取って、去って行った。
「若いお2人で、って……ねえ」
ロバートが苦笑した。
「あ、あの、ロバートさん。その節は……このブローチを頂いたときのことなんですけど、」
クラーラが意を決して言うと、
「あ、ちょっと待って。少し場所を変えましょうか。僕たちにもワインをください」
とロバートは言い、2人分のワインを受け取って、クラーラを導いた。




