本音でぶつかる
「ところで、例のバツイチ伯爵とはどうなの?」
イーヴィーの叔父宅で2人きりになると、イーヴィーはクラーラに尋ねた。
またロバートをゴリ押しされても困ると思ったクラーラは、言葉を選んだ。
「ええと……もっとゆっくりお互いを知るために、まずはお友達として、交流を深めていくことになったの」
「えっ、遠距離なのに?」
「リヴィングストン伯爵家の別宅が王都にあって、時々こちらへ来られるのよ。だから、そのときに食事でも……」
「へえ、そうなのね。でもそんなにゆっくりしてたら、バツイチ伯爵がますますオジサンになっちゃうわよ。結婚するなら少しでも早い方が良くないかしら?」
嫌味ではなく、素直にそう思っている様子でイーヴィーが言った。
「オジサンっていっても、ライオネルさんは30歳になったばかりよ」
「30でしょ、十分オジサンよ」
確かに15歳の自分たちから見て、若いとは言えない。
もじゃもじゃの髭を剃って初見より若返ったとはいえ、年齢相応だ。
「まあ私のことは置いといて……、イーヴィーの大事な話って?」
「……マイルズのことなの」
イーヴィーは神妙に婚約者の名を口にした。
クラーラはドキリとした。
「聞いて、マイルズったらよりによって私とロバートの仲を疑っているのよ」
「えっ」
「前に言ったでしょう。私が夏に帰省してたとき、浮気現場を目撃した人がいるって言われたって。でもそのデートしてるように見えた相手はロバートで、なーんだ誤解だった、で解決したはずなのに……今度は何を言い出すのかと思ったら、実はロバートと愛し合っているんじゃないかって!」
知っている、全部直接マイルズから聞いて知っている話だが、クラーラはぎょっとした。
この件に関しては、イーヴィーとしっかり話し合うようマイルズに勧め、マイルズもそれに応じたはずだ。
2人でしっかり話し合った結果、こじれたんだろうか?
「それで?」
「そんな訳ないって言っても、大勢の証言があるんだってしつこくて。信じられないんだけど、私の地元に人を送って、噂を集めたらしいの」
「噂って……?」
知っていて尋ねることにばつの悪さを覚えたが、話の着地点は分からない。
「昔の話よ。私が、ロバートへの恋文を差出人の目の前で破り捨てたり、ロバートが私に言い寄ってきた男を脅して追い払ったり、そういう昔の話を集めて、私たちが兄妹で愛し合ってるんじゃないかって」
ああ、それがマイルズの言っていた「兄妹で互いの恋愛を邪魔する言動」だなとクラーラは腑に落ちた。
「でもその話って、本当なの?」
「話は事実よ。でもそんなの、9つや10のときのことよ。子どもの頃のそういうことって、誰でもあるでしょう?」
異性の兄弟がいないクラーラには、比較すべき経験がなかった。
「私は姉しかいないから分からないけど、そういうものなのかしら」
「そうなの。マイルズも一人っ子だから分からないのよ。でね、本当はロバートのことが好きなんだろうってしつこいから、認めたの」
「えっ!?」
「確かに、子どもの頃は世界が狭かったから、ロバートがその世界の全てだったって。ロバートは誰よりも優しくて、物知りで、頼りになる存在だったの。だけど王都に出てきて、世界はうんと広がったわ。マイルズに出会って、本当の恋を知ったの。ロバートを好きな気持ちと、マイルズを好きな気持ちは全然別物なの。私はマイルズを愛しているわ。そもそもロバートとは兄妹だもの、どうにもならないわよって」
熱く語るイーヴィーに、クラーラは反発を覚えた。
「どうにもならないから、男嫌いの私に?」
つい口に出てしまった。しまったと思ったが遅かった。
「え?」とイーヴィーが聞き返した。
「どういう意味?」
「……男嫌いの私なら、ロバートさんとイチャイチャすることがないから、ヤキモチを焼かなくて済むって、イーヴィーが言っていたのを聞いたのよ。リマー子爵家に泊まっていたとき、夜中に起きたときに、読書室で2人が話しているのを聞いたの」
いいい言ってしまった!
胸がバクバクする。
イーヴィーと揉めるのが嫌で、ずっと胸の奥にしまっていたが、本当はずっと吐き出したかった。
好きならちゃんと本音でイーヴィーと向き合って話し合うべきだとマイルズに意見したとき、自分のことを棚に上げていると気づいたのだ。
好きならちゃんと本音でぶつかるべきだ、と。