落としどころ
まさかライオネルがここまで言ってくれるとは思っていなかった。
このまんまの私でいいの?
全力でサポートするから?
お姉さんも寄せ付けないって?
そうは言っても、ライオネルは留守がちだ。
本当に大丈夫なんだろうかとクラーラは迷った。
ああ、決めるって難しい。
いっそ決められた方が楽なのかもしれない。
しかし父はライラと大喧嘩して以来、クラーラの婚活に口出しする気をなくしている。
自由に決めていい分、大いに迷う。
決断には責任を伴う。
「分かりました」
返事をしないうちにライオネルが言った。
「困らせてしまいましたね、すみません」
「あ、いえっ」
クラーラはあたふたしっぱなしだが、ライオネルは落ち着いている。
包みこむように微笑んで、
「結婚に関しては諦めます。が、友達になってもらえませんか?」
とこれまた予想外の発言をした。
「レイとヴィヴィ、クラーラさんとまた遊べるのを勝手に楽しみにしてて……。子どもたちもたまに、王都の別宅に泊まりに来ることがあります。そのときに、もしクラーラさんのご都合が宜しければ、少しでも会ってもらえませんか」
「あ、えっ」
「図々しいお願いなのは百も承知ですが……」
「えっ、いえっ、大丈夫です」
とクラーラは咄嗟に答えた。
「予定が合えば。私もまた、レイくんヴィヴィちゃんに会いたいですし……」
本心でもあるし、社交辞令でもあるクラーラの言葉に、ライオネルは今日1番の笑顔を見せた。
「ありがとうございます。レイもそのうち王都の貴族学園に転入する予定なんで、クラーラさんに色々教えてもらえるとありがたいなあ」
やはりライオネルは常に1番に子どもたちのことを考えている、良い父親だなとクラーラは感心した。
ライオネルとの縁談は破局したが、友人として「たまに子どもたち込みで会う」という話で落ち着いた。
リヴィングストン伯爵家は有力な貴族だ。気まずく疎遠になってしまうよりは、何らかの形で繋がっていたほうが良いことは明白だ。
一仕事を終えた気分で家に戻ったクラーラは、とりあえずしばらくは学業に専念しようと考えたが、父親の気分次第で、また婚活に追い立てられるかもしれない。
そう考えると、完全に頭から捨て去るわけにはいかない。
婚活を頭の隅に置きつつ、もっと精進しなくては。
大した覚悟もなくお見合いを進めて、ライオネルの時間を無駄に奪ってしまったことをクラーラは反省した。
「クラーラ。大事な話があるんだけど、明日の帰り、叔父さんちへ寄ってもらえないかしら?」
下校しようとしていたクラーラは、イーヴィーの突然の頼みに固まってしまった。
最近忙しくて時間がない、というふりをして、イーヴィーとは距離を置いたままだった。
「あ、明日はちょっと……」
「じゃあ明後日か明明後日」
「明後日なら……大事な話って?」
「今ここで話せるなら、わざわざ約束を取りつけないわ」
確かに、とクラーラは納得した。
どうやら明後日イーヴィーの叔父宅へ行くまでは、「大事な話」の中身は憶測するしかないようだ。
「……ロバートさんのこと?」
「それも含めて」
とイーヴィーは含みのある言い方をした。
「クラーラにしか相談できないの。分かるでしょう?」