ライオンヒーロー
30分ほどヴィヴィアンの人形遊びの相手を務めた。
可愛いお姫さまのお人形を操って、おままごとのティーセットでお茶会が始まったと思ったら、怪獣軍団が現れてお姫さまをさらってしまった。
お姫さまは積み木の塔に幽閉され、クラーラはその囚われの姫君の役を与えられた。
ヴィヴィアンはライオンのぬいぐるみを登場させ、怪獣軍団と戦い始めた。
「このライオンさんはね、ゆうかんなヒーローなの。ヴィヴィのお父さまなの」
そう言われると、金茶色の巻き毛のライオンのぬいぐるみはライオネルに見えた。
ライオネルを初めて見たとき、クラーラは熊のようだと思い、クラーラの母は大型犬だと言ったが、そうか、ライオンだったのだ。
「本当ね。ヴィヴィちゃんのお父さまにそっくりね」
「うん、お父さまはね、りょうしゅさまになる前は、たたかってたの。きしだんちょーだったの」
ライオネルの職歴は釣書で見たし、初回のお見合いのときにクラーラの母親が尋ねていたので覚えていた。
先代の伯爵から家督を継ぐ前は、遠征専門の騎士団に所属していて、団長をしていたのだ。
「すごいね」
「うん! とりゃあ、おりゃあっ」
ライオンヒーローと怪獣軍団との戦いが、白熱してきた。
怪獣はめった叩きにされ、部屋中に投げ飛ばされていく。
可愛い顔してなかなか激しいなと、クラーラはびびった。
ぼーんと投げ飛ばされた怪獣の一匹が、部屋の隅で読書をしていたレイモンドの足元に落ちた。
それを拾いに行くついでを装って、クラーラはレイモンドに話しかけた。
「何読んでるの?」
「星座の神話」
「星好きなの?」
「うん」
「読書も好きなのね」
「うん」
即答してくれるがひどく素っ気ない。視線は本の頁に釘付けで、こちらをチラリとも見ない。
大人しく引き下がろうかとも思ったが、ここで引き下がったらもう話しかけられない気がした。
レイモンドに聞きたいことが1つあったのだ。
「ねえ、レイくんがお父さまの髭を剃るようにアドバイスしたそうね」
「うん」
「若返って見えて、良いイメチェンね」
「でしょ」
「お父さまがおっしゃってたんだけど、『伸ばし放しにしていたら剃れなくなった』ってどういう意味?」
「……お母さまが、その方がいいって言ったから。ずっと遠くで仕事してて、ひげを伸ばしぱなしにして帰ってきたお父さまに、お母さまが言ったらしい。その方がモテなくていいわって。だからそれ以来、ずっとひげボーボー」
クラーラは聞いたことを後悔した。
亡くなった母親の話をさせてしまうとは思わなかった。
「でも、ずっとモテないままじゃ困るでしょ。お父さまは、再婚したいんだし。だから剃らせた」
淡々と語るレイモンドの無表情には、葛藤が垣間見えた。
父の再婚を心から歓迎はしないが、父を応援したい、そんないじらしさを感じた。
なんて賢くて可愛い子なんだろう、とクラーラは目から鱗が落ちる思いだった。
男の子だから可愛げがない、と決めつけてレイモンドのことを見ていたことを恥ずかしく思った。
「お父さまは、レイくんとヴィヴィちゃんのために再婚したいだけよ。いつも2人のことを1番に考えているもの」
それに、とクラーラは言い足した。
「髭があってもなくても、ライオンヒーローはかっこいいわ」