リヴィングストン家の兄妹
そして遂に、――ライオネル・シオドア・リヴィングストン伯爵の自宅へ訪れる日がやってきた。
リヴィングストン家から迎えが来て、クラーラは侍女を伴って馬車に乗りこんだ。
ライオネルの希望で、今回はクラーラの母親は同伴しなかった。
リヴィングストン領には初めて来たが、のどかだが街は栄えていて、大都会ではないが田舎すぎない、程よい地方都市という感じだ。
領主であるライオネルの邸宅は、豊かな緑に囲まれていて、とにかく敷地が広かった。
聞けば、敷地内に野菜畑やフルーツ園があるそうだ。
「名産品の農作物を、ライオネル様も作っておられるのです。より良いものに改良するために、農家と共に研究していらっしゃいます」
案内人は続けて、
「もぎたての桃や梨は特別美味ですよ」と得意げに言い、クラーラの関心はさらに高まった。
自分でもいだ桃や梨にかぶりついてみたい。
それがライオネルの子どもたちと一緒なら、和気あいあいとして、いかにも平和な家族だ。
あり得る?
あり得ない?
それは、ほぼお互いの第一印象で決まるだろうとクラーラは思った。
なんだかんだ言っても、結局人と人の相性というものは、最初に感じた直感が正しい気がするのだ。
だからこそ、初対面は緊張する。
伯爵とは2度目の対面だが、それでも緊張する。
「ようこそ、はるばるよくお越しくださいました」
一月半ぶりに会ったライオネルは、大きな体格ものっそりした雰囲気も、下がり太眉と優しげな垂れ目も変わっていなかったが、大きく印象が変化していた。
「……あっ、髭」
気づいて、思わず声に出してしまった。
ライオネルは両手で頬を包んで、照れくさそうに言った。
「そうなんです、数年ぶりに剃りました。伸ばし放しにしていたら剃れなくなってしまってたんですが、これを機に剃ったほうがいいと息子に言われまして」
「そうなんですか、……あっ、ご、ご挨拶も申し上げず、すみません。この度はお招きいだき、ありがとうございます」
「いえいえ。堅苦しいのは抜きで、どうか気楽に。子どもたちを紹介しますね、どうぞこちらへ」
案内された先には、ご令息とご令嬢がいた。
それぞれ名乗って、貴族式の挨拶のポーズを取った。
もうすぐ8歳になるご令息の名前はレイモンドで、5歳になったばかりのご令嬢の名前はヴィヴィアン。
ヴィヴィアンは金茶色の巻き毛に薄茶色の瞳、下がり太眉に少し垂れ目で、ライオネルによく似ている。
レイモンドは2人に似ておらず、黒髪黒目でキリッとした顔つきだ。
多分母親似なのだろう。
挨拶が済むと、4人でお茶をしながら談笑した。
緊張しているクラーラにライオネルが上手く話を振り、子どもたちとの会話を取り持った。
「そうだ、レイ。ヴィヴィと2人で、クラーラさんに子ども部屋をご案内して。ヴィヴィ、さっき言ってたお人形遊び、クラーラさんに見せてあげてよ」
うんっとヴィヴィアンが元気よく返事して席を立ち、クラーラの手を取った。
「見せてあげる! 行こ」
ぴんと立って、クラーラを見上げる、イキイキとした瞳。全身で「嬉しい!」を伝える子犬のようだ。
か、可愛いとクラーラは思った。
兄のレイモンドはさっさと先に歩き出している。
ヴィヴィアンは無邪気で人懐こいが、レイモンドは無口で淡々としている。
やっぱり男の子は苦手だわ、とクラーラは思った。