嫌な記憶
日に日にロバートのことが気になった。
もしかして私……ロバートさんのことが好きなのかしら?
まさかそんなわけ、とクラーラは思った。
男嫌いの自分が男を好きになるわけがない。
その人のことをつい考えてしまう=好き、ではない。
嫌だから、嫌でも考えてしまうのかもしれない。
良いことよりも悪いことの方が記憶に残り、長く引きずってしまうものだ。
クラーラの「男」にまつわる嫌な記憶は、貴族学園の初等科に入学した頃にさかのぼる。
それまでのクラーラは、家族や親戚、使用人などいわば身内の異性しか知らなかった。
しかし学園に通うようになり、生まれて初めて「男」の嫌な面に遭遇した。
もちろんクラスメイトの大半は貴族らしく優等生のお坊ちゃまだったのだが、ごく一部の貴族らしからぬヤンチャタイプの男児のインパクトが強烈だったのだ。
まず声が大きくてうるさい。落ち着きがない。よく持ち物を振り回す。棒状の物を持っていると最悪だ。
走ってはいけない場所を平気で走り、思いきりぶつかってくる。
危険極まりない凶器だった。
単独で暴れるのが落ち着いたかと思うと、徒党を組んで悪戯をしたり、女子にちょっかいをかけたり、弱い者を探しては貶めて笑った。
そんな男児がクラーラは嫌いで嫌いで仕方なく、関わらないで済むよう、静かに目立たないようにしていたが、そうは問屋が卸さなかった。
緊張すると顔色が青白くなるクラーラを幽霊みたいだとからかい、何かにつけて絡んできた。
その頃から姉のライラの美貌はずば抜けていて有名だったため、姉妹の見た目の格差をからかってきたこともあった。
ああ、思い出すと今でも気が滅入る。
そんな彼らも今ではめっきり大人っぽくなり、クラーラと顔を合わせてもツンと澄ましているか、どうでもいいような挨拶をしてくる。
今現在どんなに紳士然と振る舞っていても、昔の子ども時代の飾らない姿が彼らの本質なのだと思うと、絶対に好きになれないと思った。
「……まあ、ロバートさんの子供時代を知らないけど」
と呟いて、クラーラは想像してみた。
ああ、きっと女の子と見紛うほど可愛かったんだろうなぁ。
サラサラヘアで華奢で、誰かを野次ったりからかったりなんかせず……そして今と変わらず、妹を溺愛していたに違いない。
そう考えるとやはりモヤモヤは募った。
あれから学園でイーヴィーと会ったが、クラーラとロバートの薔薇園でのやり取りについて、何も知らない様子だった。
ロバートはイーヴィーには話さなかったのだ。
もしイーヴィーから何か言われたら、と身構えていたが拍子抜けした。
最近のイーヴィーは、ロバートとクラーラをくっつけることを一旦諦めたらしく、しつこく言わなくなった。
クラーラが子持ちバツイチ伯爵を気に入ったと宣言したからだ。
「じゃあ伯爵の子どもたちと会って、これは無理っぽいって思ったときには、再考してちょうだい」
そう言ったきり、ロバートのことを話題にしなくなった。




