表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/37

デイジーの花言葉

「素敵なお庭ですね」


何重もの薔薇のアーチをくぐり抜け、小さな白い噴水と庭用のテーブルセットがある場所へ着いた。

ロバートはノースモア家への称賛を世辞的にいくらか述べたあと、本題に戻した。


「で、改めまして……クラーラさんへの贈り物です。どうぞ受け取ってください」


再度差し出された小箱をクラーラは丁寧に受け取った。


「本当に、わざわざありがとうございます。開けてみても?」


プレゼントを受け取る際の無難な返しをすると、ロバートは嬉しそうに微笑んだ。


「ええ、もちろんです」


銀色のリボンを解き、空色の小箱を開けると、予想どおりブローチが入っていた。


白くツヤツヤと光るドロップ型の白蝶貝が1枚1枚の花びらとなり、大粒のイエローダイヤモンドを取り囲み、大輪のデイジーとなっている。


「素敵……」


考えるよりも先に口に出てしまうほど、素敵な品だった。


「お気に召していただけましたか?」とロバートが言った。


「ええ、……でも、こんな高価なお品をいただくわけには」


「クラーラさんをイメージして作った品ですから、クラーラさん以外の人には似合いません。クラーラさんが貰ってくれないと行き場に困ります」


ロバートが本当に困ったような顔をしてみせるので、クラーラは「では、ありがたく頂戴いたします」と丁寧に頭を下げた。


「デイジーの花言葉、知っていますか?」


「いえ……」


「希望。平和。美人。純潔。あなたと同じ気持ち、です」


とロバートは言い、顔を上げたクラーラを真っ直ぐに見つめた。

唐突に浴びせられた美しい言葉の数々と、情熱的な視線に、クラーラはうろたえた。


「クラーラさん、僕のことをどう思いますか? 今、クラーラさんが僕と同じ気持ちなら嬉しいのに」


でっ、出た思わせぶり!とクラーラは思った。

これこそもう好きだと言っているようなもの、だけど、実際は言っていないという。

ええい、騙されるものか。


クラーラは気を引き締め直した。


「あ、あの……イーヴィーから聞いてご存知かどうか知りませんが、私……別の方とのお見合い話が進んでいて……」


「ええ、聞きました。聞いたからこそ、焦って飛んで来たのです。グズグズしていては他の男に取られてしまうと。女性に対してこのような行動力が備わっていたとは、僕自身が驚きです」


なんって口が上手いんだろう、演技達者なんだろうと、クラーラは苛立ちさえ覚えた。

ロバートが口にする、歯の浮くような台詞は全て、イーヴィーが書いた脚本なのに。


そう知っていながら、ふわふわと地面から足が浮き立つような、生まれて初めての感覚に、心もとなさを覚える自分が歯がゆい。


「クラーラさん、好きです。僕と結婚してください」


クラーラの心臓は止まりそうになった。

なんてひどい嘘をつくんだろう。

愛する妹のためには平気で嘘を吐けるのね。


「いっ、嫌です。ロバートさんが愛しているのはイーヴィーですよね。わ、私聞いたんです、夜にリマー子爵家で。ロバートさんとイーヴィーが話していたのを」


とうとう言ってしまった。

わざわざ揉め事を起こすのを避けるべく、胸にしまっていたのに。

吐き出さずにはいられなかった。


しかし大ごとにしたくない気持ちは変わらない。

顔色を失うロバートにはっとして、クラーラは慌てて言葉を付け足した。


「でっ、でも他言はしません。誰にも話しませんから、安心してください。とにかくそういうわけで、私はロバートさんとお付き合いできません。男嫌いだからイチャイチャしなくて済む、という理由で選ばれても、正直……馬鹿にされているとしか思えません」


いいいっ言ってやったわ。

言い過ぎたかしら?


「……イーヴィーには、ロバートさんが私を振ったことにしてくれれば良いですよ」


「僕は……」


言葉を失っていたロバートが意を決したように口を開いた。


「本当に、クラーラさんのことが好きなんです。イーヴィーのことは愛していますが、それは純粋に兄としてで……」


この期に及んでまだ言うのかと、クラーラは首を横に振った。


「信じられません。この目で見ましたから。この辺で失礼いたします。このブローチはお返しを……」


「いえ、これとそれは別で。イーヴィーに良くして下さったお礼の気持ちです、それだけでも信じてもらえると嬉しいです」


失礼いたしました、と頭を垂れて帰るロバートの背中を見送った。

かちっとした服装をしていて最初はパリッと見えていたのが、ずいぶんしょぼくれて見えた。


えっなに、私が悪いの?

クラーラは何度もその姿を思い起こしては、自問自答した。


私が悪かったの?

私が間違っていた?


キッパリ言ってやってスッキリすると思ったのに、どうして何かにつけて思い出しては、こんなにモヤモヤするんだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ