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お見合いを余儀なくされる

男という生き物が苦手だ。


身体が大きくてゴツゴツしている。声も大きい。さらに大きく見せようと威張りたがるし、美人とそうでない女の前で露骨に態度を変える。


そう、姉のライラの前ではニコニコしている男たちは皆、妹のクラーラには無愛想だった。


金髪蒼眼で華やかな顔立ち、スタイルの良いライラと違い、クラーラはくすんだ麦色の髪に灰色の瞳、貧相な体つきで、色白の鼻先には淡いそばかすが散っている。


そのそばかすを白粉で塗り込め、着飾らされて社交パーティーに出るも、いつも姉の陰で気後れしてしまう。


『ノースモア家の伯爵令嬢』というクラーラの立場に興味を持ち近づいてくる者も社交場デビュー当初は少なからずいたが、人見知りと小さな失敗を繰り返しているうちに、自然と距離が置かれた。


「あれがライラ嬢の妹君?」

「全然似てないね」

「オドオドして、こういうパーティーにまだ慣れてないのかな。話しかけてみようか」

「やめとけ、あの妹君は男嫌いで有名だ。話しかけても会話にならない」


両親は噂を嫌い、クラーラをなるべく早く嫁入りさせようと決めた。


「爵位のない商家……論外だな」

「こちらは前妻と死別……再婚か」

「四十男……うちのクラーラは十五だぞ」

「田舎の男爵令息……しかも次男か」


「どうしてこうもぱっとしない縁談ばかり……」


届いた釣書を眺め、父親の伯爵は嘆息した。


「まあ仕方ないか……クラーラ自身がぱっとしないんだから」


「なんてひどいことを言うの」とかばってくれたのは母だった。


「クラーラは大人しいけど、心の優しい可愛い娘よ。人見知りだけど、クラーラのことをちゃんと知ってもらえば、良い結婚に結びつくわ」


「分かってる。だが、知ってもらおうにも当のクラーラが固まってしまって上手く話せないんだから、理解してもらいようがないだろう。若いうちならまだどうにかなる。これで年がいってみろ。『行き遅れ』のレッテルが貼られて、ますます縁が遠のく。ライラの明るい将来に響いても困るしな」


父は、国王の外戚と婚約中のライラの体裁をとても気にかけていた。

王族を婿養子にし跡継ぎにすれば、将来の安泰は約束されている。


行き遅れの冴えない妹がずっと家にいられては困る。

伯爵はクラーラに言い渡した。


「クラーラ、この中から会ってみたい者を選んで、1番良いと思った相手と結婚しなさい。全員と会ってみてもいい。お前が選ぶ立場だ、良いな? お前の希望を尊重してやる」


恩着せがましい言い方だが、要は行き遅れないために「ぱっとしない」選択肢から妥協して選べ、ということだった。


贅沢は言えない、クラーラも自分の立場をよく分かっていた。

自分が冴えない女であることも。

でも嫌で仕方がなかった。何が嫌って、男全般が嫌なのだから。


それでも親の意向に沿って結婚をする、それがお家に生まれた娘の役目だ。


ああ、できたら相手も嫌々で、体裁のためだけに結婚を望んでいる人なら良いのに。

お互いがそうなら、結婚して一つ屋根の下に暮らしても距離を置いて、寝室は別々で、同居人のような関係でいられる。


そうだわ、外に愛人を作ってくれて構わないし。

安定した夫婦という体裁さえ保ってくれれば、理想的だ。

でもその場合……跡継ぎができないのが問題だ。愛人に子供ができて、追い出される……?




「それでね、考えたの。すでにご令息がいらっしゃる伯爵なら、新たな子供は望まれないかなって」


「ええっ〜、バツイチのオジサンとお見合い!?」


親友の子爵令嬢、イーヴィーはクラーラの話に口をあんぐりとさせた。

男性に限らず社交全般が苦手なクラーラだが、イーヴィーとは心を開いて話すことができた。


イーヴィーの実家は田舎にある子爵家だが、貴族学園に通うために王都の親戚の家に身を寄せている。

ふわふわの柔らかな髪の毛はピンクがかったブロンドで、小柄だが元気いっぱいでちょこまかとよく動き、表情が豊かだ。


王都育ちのクラスメイトの中には、田舎育ちでガサツだ、はしたない、男に媚びているなどと陰口を叩く者も多いが、それはすべて僻みだとクラーラは知っていた。


人目を引く珍しく髪色も、自由で素直な言動も、とろけるような可愛らしい笑顔も、みんな本当は羨ましくて仕方ないのだ。


自分たちには無いもの、真似できないものを持っているイーヴィーが。

そして妬んだクラスメイトたちが結束して意地悪をした結果、イーヴィーは学園のアイドル的存在の公爵令息の目にとまり、2人は婚約するまでの仲に至ったのだ。


皆の妬みを一身に受けるイーヴィーだが、イーヴィーの転入初日からクラーラはフラットに接していた。

あっという間に周囲から浮いてしまったイーヴィーに対し、クラーラだけは敵意を持たず親切であり続けた。


そして「クラーラ様っ、優しい! 天使っ!」とすぐに懐かれてしまった。


「様は要らないわ、同じクラスメイトだし」


「えっ、じゃあクラーラって呼んでいいの? 嬉しいっ。クラーラ好きっ!」


愛くるしい見た目と愛嬌の良さ、素直な感情表現が可愛いと思った。


クラーラがイーヴィーを受け入れられたのは、他のクラスメイトと違って競争心がないからだろうと自己分析した。

イーヴィーを妬んで悪く言う者は、何クソ私だって、と張り合う気持ちがあるのだ。

自分の方が上だ、負けていない、という自負がある。イーヴィーの家の爵位が低く、田舎出というのも余計に腹立たしいのだろう。


その点、クラーラには張り合う気持ちがまるでなかった。

イーヴィーを一目見たときからその可愛らしさに圧倒されたし、言動の自由さも無邪気さもすべて自分とは違う、とすんなり認めてしまった。

完璧な姉と常に比べられて育ったため、諦めることに慣れていたのだ。


「本当にそれでいいの? そのご令息との方が年齢が近いんじゃないの。バツイチオジサンよりも」


「いいの……経済的にも安定しているお家らしいし……、一度会ってみても良いかなって」


「駄目よ、そんなの。クラーラにはもっと良い相手がいいわ。そうだ、クラーラに良い人がいるわ。私の兄よ。田舎だけど子爵家を継ぐ予定の。紹介するから、一度会ってみて。お願い! クラーラが兄と結婚すれば、私たち姉妹になれるし。それってすごく素敵!」


たった今の思いつきに興奮するイーヴィーにクラーラは唖然とした。


イーヴィーの兄とお見合い!?

あまりに急な提案で驚いたが、イーヴィーのはしゃぐ姿を見て悪い気はしなかった。


確かに父がかき集めてきたお見合い話よりも気持ちが揺れる。


「でっ、でも、そんな勝手に。お兄様やお家のご都合もあるでしょうに。それに私、知ってると思うけど男の人と話すのが大の苦手で……紹介してもらっても、きっと上手くいかないわ。イーヴィーの顔に泥を塗ってしまう……」


「大丈夫。兄はなんていうか……草食系?で、グイグイがつがつしてないタイプだし。線が細くて女顔だから! そうね、悪く言えば男らしくないの。だからクラーラにぴったりだと思うわ」


それに、とイーヴィーは満面の笑顔で言った。


「私のお願いなら大抵きいてくれるから」



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