まさかあんたとやり合う事になるとはな
ハーランド一族は、代々白銀の髪と血のように紅い瞳を持つ。
俺は短い銀色の髪、紅色の瞳で夜目も効く。
ルーベンス様の命令を受け、俺は気配を消しながら天井裏を通り、動きやすい様に私服から途中で異空間から引っ張り出した仕事着に着替えつつ追い掛けた。
勿論相手はハウザー様の妻で、現王妃エリクレア様だ。
ハウザー一族は血に汚れても大丈夫なように黒い仕事着を着る。
俺の場合は、袖無しの黒のタートルネックに、黒い手袋、黒いズボンに黒の靴。
親父や弟のメイゼスト、主のルーベンス様は上着に黒いコートを着るが、俺は邪魔なので着ない。
部屋の近くまで来ると、エリクレア様を守る暗部が出てきた。
「これ以上先には通さん」
「お引き取り願おうか」
「ふむ?悪いがこれも我が主の命令でな……。そこを通させて貰おう」
暗部の2人に、俺は迷うこと無く答える。
「いくらハーランド一族の者でも……」
「エリクレア様には近付かせん」
その瞬間、暗部2人から殺気が放たれた。
僅かにだが、俺の肌を殺気がピリピリと刺激する。
「及第点かな?だけど残念……お前ら程度では俺を倒せないよ」
笑って俺が言った途端、暗部2人は同時に襲い掛かって来た。
「死ねっ!!」
暗部の1人が手にするナイフで俺の首目掛けて斬りかかる。
「遅い」
俺はナイフが届く前に、1人の腹へ膝蹴りを喰らわせる。
「かはっ!!」
もろに喰らって1人は膝を付くが、俺は即座に背後に回って首に手刀を喰らわせて気絶させた。
「あと1人……」
俺が振り返ると、2人目の暗部が手甲で俺に殴り掛かってきた。
「おらぁっ!!」
「ちっ……」
手甲の武器である飛び爪が両手合わせて10本付いてるから質が悪い。
避けているが、その度に俺の前髪や他の髪が切れていく。
間合いが取りにくいしで面倒臭いな……ハゲになるのだけは御免だ!!
上半身を後ろに傾けて俺はばくてんすると、そのまま両手を付けたまま両足を回転させる。
俺の靴には仕込みナイフが付いてるから、回転させる事によって飛び出し、2人目の暗部の飛び爪とぶつかり、回転している事で勢いが増して俺の仕込みナイフと、暗部の飛び爪は相殺し砕け散った。
「くそがっ!!」
不利と判断した暗部が座ったままの俺に殴り掛かる。
「あらよっと!!」
だが、俺は余裕のまま暗部に足払いを掛けて転ばす。
「うわっ!?……へぶっ!!」
体勢が保てない暗部はそのまま転び……
俺は暗部の顎に右ストレートを喰らわせた。
そのまま暗部は吹っ飛び白眼を剥いて気絶する。
「一丁上がり」
軽く手をパンパンと叩いた俺はエリクレア様の部屋へと向かう。
……だが、おかしいな?手応えが無さすぎる。弱すぎだろ……幾らなんでも……。
余りにも不自然さに俺は一抹の疑問を感じた。
部屋の天井裏で、俺はエリクレア様のとんでもない話を聞いてしまった。
……転生者?ゲーム?はぁ?意味分からねえけど……?
混乱しながらも俺は息を吸って冷静に戻る。
……神獣王国や王族に禁術を掛けた以上、エリクレア様の身柄を抑えねぇとな……。
決断した俺は、部屋に降りようとした瞬間……
「エリクレア様に手出しはさせませんよ?」
俺の背後に現れた男が視界の端で笑みを浮かべる。
「っ!!」
その瞬間、俺は後ろに飛んで男から距離を取った。
「っぅ……」
だが避けるのが遅れたのか俺の右頬に痛みが走る。
長い白髪の髪、白衣を着た優しそうな顔立ちの青年は、左手に構える糸巻きを無造作に振って血を飛ばした。
隣国の大国アルカナディアは、王族、貴族全てが暗殺者として名高い。
その中でも、スラム街出身から己の力で侯爵に成り上がった者が居る。
今から20数年前、人間の大国ゾロアが大国アルカナディアに攻め込んだ。
だが、そのゾロア軍はたった1人の少年兵によって壊滅させられる。
その名をシャルラ・グランベルム。戦場では糸の殺戮者として恐れられた美しき悪魔。
「まさか、あんたとやり合う事になるとはな……」
俺は久し振りに本気で闘える事に気分が良くなり、拳を構えるのだった。




