お前らがギャースカ騒いでも仕方ねえだろうが?
「ったく、エリクレアと言い、ルーベンスと言い……どっちも引かねえし馬鹿だし聞いているこっちが疲れちまうぜ」
俺は心底疲れたように、涙目のルーベンスと、青ざめたままのエリクレアの2人に言った。
「子を産んでも、王妃になっても俺達が臣下にならない限り、お前の立場が上になることはねぇよ。っていうか、祖国でも王女教育はしたんだろ?何で分からねぇで上から目線になってる訳?」
呆れて前髪を邪魔だから右手で分けながら、俺はエリクレアを見据える。
「っ……それは……」
恥ずかしくなったのか、エリクレアは今更自分の行いにしどろもどろになった。
「レミオ兄貴もクレイ兄貴も同罪だ。立場を弁えさせるのが王族である俺達だろうが?注意して分からせなくてどうするんだよ?」
溜め息をついて俺は馬鹿兄貴二人にも言い放つ。
「……すまん……」
「……そうでしたね……すみません」
レミオ兄貴とクレイ兄貴は謝ると、下に俯いて小さくなる。
「それからルーベンスもだぜ?臣下の事で怒る気持ちも分かるけどさ、流石に女相手に攻撃魔法はねぇよ。そいつは人間としても、王族としてもやっちゃ行けねえぜ?」
ルーベンスにも振り返って俺は叱り付ける。
「っ……悪かったよ……」
しっかし、まぁ……エリクレアの言葉にもびっくりしたわ。
何処かの小説やゲームに出てくる悪役令嬢?いや、悪役王妃かよ?
……ん?悪役王妃?……ゲーム?
……また頭ん中に不思議なワードが閃いたわ。
俺はしかめっ面をして腕を組むと頭を振った。
「とにかく、当事者であるメイゼストから話聞かねぇと駄目だろう?そこでお前らがギャースカ騒いでもしかたねえだろうが?」
呆れて俺は2人にトドメを入れてクレイ兄貴とレミオ兄貴に振り返る。
クレイ兄貴もレミオ兄貴も苦笑して頷く。
「……いつもアホなシリウス兄さんがまともな事を言っている。明日は空から剣が沢山降って来るかな?」
「うっせぇわ!!」
人が真面目に言っているのにふざけるルーベンスに俺は怒る。
「あははっ!!ごめんごめん。それじゃこの場は僕が諜報部隊長として責任を預かるよ。ハウザー、良いよね?」
「はい、構いません」
ルーベンスが笑って聞くと、ハウザーも頷いて返事をした。
ふむ?それじゃ俺は下がるとしますかね……。
レミオ兄貴の隣に下がると、一先ず様子を見ることにした。
「メイゼスト、それじゃ話してくれるかな?」
ルーベンスはメイゼストに振り返って言う。
「……はい、全ては10年前の事件でルーベンス王子を始めとする殿下方々や先代国王陛下を含めた王族や、我が家族を含めた四大公爵家等の高位貴族全員が死んだと聞かされた時です。
唐突に見えていた目標が無くなり、私はハーランド一族をどう導いて行けば良いのか分からなくなりました」
メイゼストはルーベンスを真っ直ぐ見据えて応えていく。
……確かにな。メイゼストの気持ちも分からなくもない。
俺は納得すると、メイゼストの様子を見守ることにする。
『灯兄さん!!行っちゃ駄目だ!!濁流が押し寄せてくる!!』
『明、まだギリギリ大丈夫だ!!早く水没した車からじいさん出さないと手遅れになっちまうぜ!!』
……ん?なんだ?この記憶は……?
見慣れない景色。
押し寄せる川の濁流。
俺と同じ顔の弟との会話していた光景が過った。
「……?」
訳も分からず俺は首を捻るばかり。
「私はこの10年、どんなにてを尽くしても事件について手掛かりを得ることが出来なかったのが……いつの間にか私自身が自分を追い詰めて居ました。そんな時、反王族派の企みを掴んで、もうそれしかないと思ったのです。潜入して反王家派に近付きながらマーシャに命じて敵の演技をしつつ探らせることで今回の事件を起こしました」
メイゼストは偽り無くルーベンスに答えた。
「……そうだったんだね。……隠していたのは王族の失態だよ。僕にも非がある」
悲しそうにルーベンスは顔を歪ませて非を認める。
……俺達も同じだな。メイゼストがそうなら、領地に残した奴らも同じだ。……悪いことをしたな。
俺も自分の非を考えさせられ、部下の姿を思い出す。
「エリオット様に助けられましたが、今回の責任は全て私にあります。何なりと処分を申し付け下さい」
膝をついてメイゼストはルーベンスに頭を下げて言うと、覚悟を決めたのか目を閉じる。
「今回の事件、非は王族にあるよ。家族である君達には知らせるべきだったね。10年前の犯人に当たりを付けているけれど確定には至らなくて秘匿していたんだ。何処に情報が漏れるか分からなかったから……」
「……ルーベンス様……」
ルーベンスに言われてメイゼストは顔を上げて目を丸くする。
「ハウザー、僕の臣下への処分を君に一任するよ。王族の非も含めて判断して欲しい」
「ルーベンス兄上、分かりました」
ルーベンスがハウザーにメイゼストを委ねたな。
さて、どうするのか見物だぜ。