プロローグ
運命だと簡単に片付けられたらどれだけ良かっただろう。
いつもの駅、いつもの帰宅ラッシュ。
ただ、違って居たのは招かれざる客が居た事。
僕は神道明(30)。武術、気道、柔術に憧れていた僕は中学を卒業して直ぐ、あちこちの流派で学んで血の滲む努力をした。
そして遂に、様々な流派を組み合わせて独自の我流を極め自分の神道流を起こしたんだ。
弟子も少しずつ増えてるけど、武道家一本では喰っていけない。
僕は合間にバイトしたりして何とか定時制の高校を卒業して企業に務めることが出来た。
武道家とサラリーマンは大変だけど毎日充実していたのは本当。
そんなまさか……改札出て直ぐ走って来た犯人に後ろから刺されるなんてね。
疲れていたせいか、殺気に気づくことも出来ず、背中から腹にナイフ刺さってるし、血が止まらないしで何が何だか……。
周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図。10代くらいに見える上半身裸の男がOLや子連れの親子、高齢者を次々と刺している。
確かに日本で頭のおかしい犯人が事件を起こしてるのはニュースで知っていた。
同じ日本でも、何処か他人事のように思って居たけど、目の前で起きている惨状を見て僕は頭の中が真っ白になった。
何もしてない人が目の前で殺されていくのを見て、これが冷静で居られる訳がない。
身体は徐々に冷たくなって行くけど、僕は全力で走りながら気を集中させる。
犯人は目の前で暴れることに夢中で僕に気付かない。
左手で犯人の左肩を抑えると、右手の気を犯人の背中に向かって放つ。
犯人は気を喰らって口から泡を吹くと前のめりになって倒れた。
本当は犯人を殺す気で気を打ち込みたかったけど、死に掛けてる今の僕では気絶させるのが精一杯だった。
遠くでサイレントの音を聞きながら、ついに僕の目の前は真っ暗になる。
死と言うのは本当に呆気ない。
事故や自殺もそうだけど、直ぐに死ぬとは限らないのは確かだ。
病気で苦しんで死ぬのも嫌だけど、まさか刺されて死ぬとはな……。
運命は人それぞれ。本当に何があるか分からない。
死をもってして、僕はそんな事を考えながら暗闇の中で溜め息を付いた。
死にたくない。それは強く僕の頭の中に残ったのは間違いない。