初夢はナイショ
思いつき短編です。
『初夢は秘密にすると叶う』という話から広げてみました。
どうぞお楽しみください。
「ふぅ……」
披露宴の後の見送りも終わって、ようやく一息ついた。
ベッドに腰掛け部屋を見渡すと、スイートとまではいかないが値段に見合う豪華な部屋。
そしてバスルームでシャワーを浴びている新妻の侑芽。
あぁ、長かった……!
大学の時に同じサークルになって、卒業間際に告白して付き合う事になって、そこから三年……。
侑芽は家の教育が固かったそうで、
『結婚するまでそういうのは……』
と清い関係のままだった。
それが!
いよいよ!
今夜!
解禁!
くぅ〜! こんなの期待するなって方が無理だぜ!
「……あの、お待たせ……」
!
来た!
バスローブ姿の侑芽!
濡れた黒髪!
桜色の頬!
いつもの眼鏡さえ輝いて見えるぜ!
「……」
「? どうした?」
「……うん」
俯いたまま固まっている侑芽。
……そりゃそうか。
女の子にしてみたら、初体験って怖いものみたいだし。
……俺は俺で上手くできるかの心配はあるけど、知識だけはあるからリードしてあげないとな。
「……不安か?」
歩み寄ってそっと抱きしめる。
強張っている身体。
優しく頭を撫でていると、少しずつ力が抜ける。
「……あのね雅仁、私、秘密にしていた事があるの……」
「……何だ?」
新婚初夜に秘密の告白!?
何だよ怖いよ!
実は初めてじゃないとか、バツイチで子どもいるとか、男でしたとか、嫌な想像がぐるぐる回る!
「……あのね? 私、五年前のお正月に夢を見たの」
「……夢?」
初夢ってやつか……。
それが何なんだ?
「……それは、その、雅仁と結婚する夢だったの……」
「えっ」
俺と、結婚する、夢……!?
でも五年前って、まだ俺達付き合ってない、よな……?
「……でもまだその時は雅仁の事サークルのメンバーとしか思ってなくて……」
それは俺もそうだった。
ただ四年になった辺りから、ちらちらこっちを見る侑芽の事が気になり始めて、就職決まったのを機に告白したんだった。
……って事は、あれ?
「初夢って誰にも言わないと叶うって聞いてたけど、だからって雅仁やサークルの友達に言ったらどんな風に思われるかわからなくて……」
初夢は言わないと叶うってのは、俺も聞いた事ある……。
え、じゃあ俺、侑芽の初夢のお陰で付き合えて、結婚までいったって事……?
「も、勿論雅仁の事は好き! 大好き! でも何か夢に引きずられて結婚したみたいな気がして、ずっと言えなかったの……」
「そんな……」
「それに、言った途端叶わなくなったらって考えたら、それも怖くて……」
「そんなの最高じゃないか!」
俺は嬉しさのあまり、侑芽をぎゅっと抱きしめた。
「え、ま、雅仁!?」
「だって夢で結婚する事が決まってたって、そんなの運命じゃんか! そういう熱い展開大好きだぜ! 俺!」
「雅仁……!」
涙声で俺の名前を呼んで抱きしめ返してくる侑芽。
その愛おしさに胸が苦しくなる。
たまらなくなった俺は、侑芽を抱き上げてベッドへと運んだ。
「ま、雅仁……。こ、この先は、夢じゃ見てないから、その、優しくしてね……」
「侑芽……!」
俺は愛しい気持ちのまま、侑芽に覆い被さり、
「はっ!?」
目を覚ますと木目の天井。
跳ね起きると、見慣れた散らかった部屋。
……え?
今の、夢!?
嘘だろ!?
慌てて携帯を見る!
……令和五年一月二日……。
……そうだ、俺は那須雅仁……。
大学一年生……。
KIRINの童貞!
ぐあああ!
しかも相手は同級生でサークル仲間の藤高侑芽!
夢の中ではめちゃくちゃ可愛かったけど、現実は『雪眼鏡』と呼ぶに相応しい冷徹女!
「恋愛にカロリー使うなんて、無駄以外の何物でもないですね」
とか言って合コンに行く俺を馬鹿にしやがった!
くそ! こんな初夢、誰かにとっとと話して……!
『も、勿論雅仁の事は好き! 大好き!』
『ま、雅仁……。こ、この先は、夢じゃ見てないから、その、優しくしてね……』
……ぐ……!
ほ、保険として取っておこう!
ろ、六年も先の話なわけだし、他に可愛い子と付き合えたら、そこで誰かに話せばいいわけだしな、うん!
初詣にでも行って厄を落とそう!
……あ、藤高、帰省しないって言ってたな……。
駄目元で誘ってみるか……。
読了ありがとうございます。
R-18に踏み込む度胸がないなら、もう夢オチしかないじゃない!
さておき登場人物のお名前紹介ー。
雅仁と侑芽で「まさにゆめ」でした。苗字は一富士二鷹三茄子から適当に。
なおこの夢は正夢になりません。
何故なら雅仁の猛アタックで在学中に付き合う事になり、卒業と同時に結婚する事になるからです。
想定より三年もはやーい。
お楽しみいただけましたら幸いです。