9・偶然
恵太がぶつかった相手―――――。
薄暗い店内で、見上げる格好の恵太には逆光になり、
一瞬誰だか分からなかった。
「え?・・・諌山君?」
その声に目を凝らすと、
「あ・・・。雛沢先生・・・」
こんなところで出逢うとはお互い思ってもおらず、
ただただ驚き、動けなかった。
中途半端に体を出したままの恵太の様子に気がついた悠斗が
何事かという感じで顔を出した。
「わ!びっくりしたー。雛沢先生じゃん」
「え!亜子ちゃんいるの?!おー偶然!!」
半分酔っ払いの暁まで出てきて、廊下は一気に賑やかになった。
「こんばんわ・・・て、あなたたち・・・飲んでるの?!」
驚きを隠せない亜子だったが、ハッとしたように
軽く睨んで見せた。
「はて。なんのことでしょう?」
「亜子ちゃーん、内緒にしてぇ」
悠斗と暁それぞれの反応を見て、恵太のほうにも顔を向ける。
「・・・諌山君、あなたも?」
「俺は飲んでない。ゼロビールと、ウーロン茶」
恵太のその言葉は本当だった。
人前に出る仕事をしている以上、
法律遵守というのは、まぁもちろんだが
それは自分で決めているルール。
暁も悠斗もそれは知っていたので、無理に飲ませようともしなかった。
今まで飲酒したことがないといえばウソになるが
外では絶対に飲まなかった。
「・・・ホント?」
「あーセンセ、それはホント。恵太、絶対飲まないもん」
「週刊誌載っちゃうと困るしねぇ」
恵太が答える前に、悠斗と暁が口々にかばった。
「週刊誌?」
「あれ、センセ、知らない?」
「悠斗!」
恵太は言葉を遮ると、
亜子の顔を見た。
「取り合えず、今、ここで会ったのは俺だけってことにしてくれませんか?」
それ以上、聞いて欲しくない。
そう言いたげに話題を変えた。
「諌山君・・・」
恵太の名前を呼ぶ亜子を見た暁が
何かいいことを思いついた顔をして、
にやっと笑った。
「亜子ちゃん、ゲームしない?」