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53・『あの日』の真実 2

「これ・・・なあに?」



手の中の箱は一見するときれいだったが、よく見ると

どこか時を感じさせるような・・・ところどころ擦れたり色が褪せていたりした。



「開けて見みて」



郁がその箱を指差しながら催促した。

亜子は小さく頷いてリボンを解いていく。

(まさか・・・)

次第に高まる緊張感で、手が震える。


そっと箱を開けると・・・。



「―――――――っ!!!」



そこには少しクセのある字が連なるメッセージカードと

小さな石が光る指輪が入っていて・・・。

その文字を読んだ瞬間、息が止まるかと思い・・・。

思わず口元を押さえ、声を失った。



「・・・それが、あの日の答え。余計な心配させて傷つけてごめんね」



そう言うと、亜子の頭をポンポン、と2回軽く叩いた。



郁の謝罪が間違っていると伝えたくて、亜子はただただ頭を左右に振っていた。



『亜子へ 

高校卒業おめでとう。少しいびつだけど僕が作った指輪です。

大学卒業したら結婚しよう 郁』



メッセージカードの中の郁の想いが溢れていて

自分の意思とは別のところで涙が零れ落ちていた。


郁はそんな亜子の頭を引き寄せ、自分の肩へと寄り添わせると

そのまま優しく、亜子の滑らかな髪の毛を撫でながら続けた。



「・・・あの日、一緒にいたのはジュエリーデザイナー。

大学の頃の先輩に紹介してもらったんだ。あのホテルの中のジュエリーショップで仕事してて

奥にちょっとした工房があるんだ。

いろいろ相談しているうちに、自分で作ってみたらどう?って言われてね。

石を選んでもらって、そこで内緒で作らせてもらったんだ。

ま、シルバーだけど普通じゃなくて面白いなって思ったから、

それから塾の帰りにしばらく通って仕上げた」



その言葉に、亜子は連絡の付かない日々が全て自分のためのものだったと改めて知り

どうしようもない罪悪感と自分の過ちに涙が止まらなかった。



「婚約者がいるって噂が流れたのも・・・。急いで帰る理由を同僚に聞かれて

『婚約したい相手がいるんだ』って話したら、どうも人伝に広がっていく間に

『婚約者がいる』にすりかわっってたみたい」



嗚咽の止まらない亜子に頭の上から優しく降り注ぐ郁の声。

最後にくすっと笑うその息遣いまで伝わってきて、心地よかった。

ずっとずっと恋しかったこの温もり。

時は流れお互い変わった部分もあるけれど

それでも芯の部分は何も変わってなくて。


ちょっとした仕草や嗜好物やクセに触れるたび

愛しあっていた日々、思い続けていた4年間が溢れてきて・・・。

あの頃の気持ちが鮮明に蘇り、愛しさが胸いっぱいに広がって

先ほどまで感じていた切なさとは違う、甘い痛みに代わっていた。


郁は体を少し捻り、横向きのままの亜子を強く抱きしめた。



「亜子・・・」



郁の胸からふわりと薫る、タバコと控えめに纏うコロンの匂い。

(あぁ・・・。カオルさんの匂いだ・・・)

あの頃と何も変わらない郁を胸いっぱいに感じ、

亜子は自然と腕を背中へと回し、自分もそっと抱きしめた。


その瞬間、亜子を抱く郁の腕に一層力がこもった。



「カオルさん・・・」


小さく名前を呼んでみる。

それに答えるように郁が亜子の頭に頬を摺り寄せた。



「亜子・・・。愛してる・・・」



耳元で囁かれる、数年越しの愛の言葉。

思考回路がうまく作動しなくなり、体の芯が痺れていくのを

郁の腕の強さに応えながら感じていた。






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