38・スーパーマンはいらない 2
「どうもっ、初めまして。松浦泰次です。おーおー!ナマ諫山恵太じゃん!!」
初対面にも関わらず軽いノリの泰次に戸惑いながらも
求められるままに握手を交わす。
「初めまして。諫山恵太です。よろしくお願いします」
「やだねぇ、若者。固いよ~??堅物は老けるの早いんだぜ?知ってた?」
「はぁ・・・」
泰次は今年32歳になる若手だったが
数々の賞を総なめにしている今最も注目を浴びている監督だった。
少々型破りな一面もあり、才能はさておき、私生活やその破天荒な面で
賛否両論混ざり合い、週刊誌の格好の餌食となっていた。
当の本人は、全く気にも留めていないようだったが。
そんな自由人泰次は、
「座ってもいいですか?」とたずねるや否や、答えを待つまでもなく
どかっと座り込み、唖然として動けない恵太と樹、泰次を案内した佐々木を見て
「?諫山恵太、座れば?」
と着席まで促すものだから、恵太たちは完全に言葉を失った。
「早速だけど、諫山恵太」
「・・・恵太で、いいです」
「あ、そう?じゃあ、諫山恵太。単刀直入に言うわ」
・・・この人、人の話聞けないんだ・・・。
さらりと流す泰次の顔を見ながらそう思った。
「映画、乗り気じゃないって本当?」
「・・・すみません・・・」
「ちょっ、恵太?!何言ってるの!すみません、そんなことないんです。
今もサックスのレッスンを・・・」
バカ正直な恵太の答えに慌てて身を乗り出した樹が
必死にフォローへ入ったが、泰次はそれに顔色一つ変えることなく。
右手を軽く挙げ、無言で樹を諭した。
「ふーん。そっか。台本渡しただろ?それは読んだ?」
「・・・まだです」
「---っ。恵太っ!!」
その答えに樹は額に手を当て、背もたれへなだれ込んだ。
泰次の顔をまともに見ることもできず、顔を伏せ
指を絡め組んでいる自分の手を見つめながら
恵太自身も、これでこの話も終わったな、と思った。
しかし。
「いいねぇ!諌山恵太!!最高じゃん。やっぱり主役決定ね」
「・・・は?」
泰次は満足そうな笑みを浮かべて、
思わず顔を上げた恵太を見た。
あまりに非凡な対応に
泰次以外がまたも言葉を失くす。
「来週初め、顔合わせするから。制作発表はまた後日連絡するわ。
撮影、すぐにでも入りたいから台詞入れとけよ。て、あー、諌山恵太
高校生か。いいねぇ、若者。じゃあしょうがないな、夏休み入ったらすぐだな」
「ちょ・・・ちょっと待ってください」
「何?あぁ、ひょっとして盆休みの心配?諌山恵太、意外に墓参りとか大切にするタイプ?」
「だから!待ってください!!俺、返事してないです」
泰次のペースに飲み込まれていた恵太が
思わず声を荒げてその場に立ちあがり、泰次を見据えた。
いつも温和な恵太のその表情に
樹と佐々木にも一瞬のうちに緊張が走る。
それでもやはり、一人冷静な人物が一人。
「なんだ。ちゃんと腹から声出るじゃん」
泰次は満足そうにニヤリ、と笑いながら
恵太を見上げていた。
泰次は硬直している恵太たちを気にも留めず
ポケットから煙草を取り出すと
指で挟んだそれを顔の位置まで上げ、軽く樹に目配せをした。
言葉だけでなく、動きまで失っていた樹は、
ハッと我に返り、テーブルに形ばかり置かれていた灰皿を
泰次へと押し進めた。
「諌山恵太、お前、腹ん中ダークだろ?自信無さそうな顔してんな」
「・・・」
泰次は恵太を探るように一瞥をくれた後、
使い込んでいると見えるジッポライターを開き、
ゆっくりと火をつけた。
次から次へと想定外の言葉を投げつけられたせいか、
触れられたくないところを衝かれたせいか。恵太は言葉を失くした。
自由人、泰次登場です。
ちょっと今まで書いたことのないタイプの人間なので
結構楽しいかも(笑)。
恵太の人生を変えることになりそうな泰次、
どうやって恵太を口説き落とすのか・・・。
またお暇があれば覗いてやってくださいね。