36・神様、今日だけ 3
「・・・俺のこと、好き?」
初めて直近で聞く、低く甘い声に
ゾクッとする。
恵太の優しい束縛。
身を捩じらせれば簡単に逃げられるはずなのに
全身に力が入らず、動けない。
「俺のこと、好き?」
もう一度、囁かれ、恵太の息遣いが
亜子の唇へと当たる。
麻酔をかけられたのような痺れる感覚で
僅かに残っている理性に必死にしがみつき、声を絞り出す。
「す、き・・・じゃ・・・な、い」
言い終わる前に、恵太の唇が
亜子の唇に、そっと触れる。
「・・・聞こえない・・・」
答えてはいけない。
応えては、いけない。
頭の片隅で、自分の声がする。
「・・・わたしは・・・すきじゃ・・・」
震える声で、もう一度呟こうとするが
角度を変えて、恵太の唇が再びあてがわれる。
「・・・聞こえない」
ちゅっと、わざと音を立てて唇を奪われる。
「聞こえるように・・・ちゃんと、言って」
「わ、たし・・・せんせい、だし・・・」
決めたのだ。
教師が生徒と恋愛しては、いけない。
自分の想いで、恵太の未来を潰してはいけない。
消えかかる理性を総動員し、
顔を背けようともがくが恵太はそれを許してはくれない。
亜子の顎に手を添えて、恵太の目の前で固定する。
真っ直ぐな、切れ長のその瞳に見つめられると
想いが溢れ出てしまいそうで苦しくなる。
「だ、め・・・だよ・・・。こんな、こと・・・」
恵太の動きは止まらない。
亜子の言葉の間にも
何度も、何度も、優しく続けられるキス。
「・・・じゃあ、ちゃんとフって?」
恵太が小刻みに震えている亜子の背に両手を回し、
そっと抱き寄せる。
額と額、鼻と鼻を合わせる。
それはある意味、
キスよりも間接的な刺激で
亜子の神経を静かに、しかし激しく襲った。
「俺の事、どう思ってるの?」
真っ直ぐで、少し潤んだ瞳は色っぽかった。
伏せ目がちに囁かれ、全身をゾクゾクとした何かが逆走し
頭の芯を麻痺させていく。
「き・・・らい・・・」
震える声で呟いてみるが、力のないその言葉に
説得力はなく。
その証拠に恵太は亜子の言葉を受けてもお構いなしに、
小さい子を宥めるような微笑みを向けていた。
・・・もうとっくにバレている。
恵太君は、この嘘を許してはくれない・・・。
そう思った。
「きらい?」
「・・・きら・・・い・・・じゃ・・・な、い・・・」
それは、亜子の降参宣言。
もう、抗うことが限界だった。
同じ気持ちで嬉しいはずなのに、
進んではいけない道に、恐怖でひるんでしまう。
ごちゃ混ぜの感情に、苦しくて恵太の顔が歪んで見える。
亜子の瞳いっぱいの涙が、今にも零れ落ちそうだった。
亜子の言葉に微笑み、両手でそっと頬を包み込みながら
最後の一言を待つ恵太。
「けいたくんが・・・すき・・・」
言い終わると同時にホロホロと、粒となって零れた涙が
恵太の手に伝わる。
「・・・上出来・・・」
恵太はもう一度優しくキスを落とすと、
亜子の泣き顔を満足そうに眺めて、ふっと笑った。
「俺も、あこが好きだよ」
そう言って亜子の小さく華奢な体を抱きしめると
今度は深く、長いキスを
いつまでも落としていった。
もう・・・戻れない。
亜子は、初めて恵太の口から、
何度も零れる自分の名前に幸せを感じながら
そっと恵太の背に手を回した。
大きくて、逞しくて、温かな背中。
恵太に包まれると先ほどまで感じていた恐怖が
不思議と和らぐのを感じた。
次第に強さを増す激しい口付けに、思わず吐息が漏れる。
背中に感じる恵太の腕が、壊れ物を扱うかのような優しさから
愛しいものをもっと感じたいと、かき抱く強さへと変わっていく。
それに応えるように亜子も抱きしめ返し
その秘め事に身を委ねていた。
神に祈った約束は『今日だけ』。
ならばずっと『今日』が続きますように・・・。
甘い刺激に麻痺していく意識の中
永遠の今日を、ひそやかに祈った。
恵太、意外にドS(笑)!?
ちょっとあまりの恵太の動きに、らしくないかなぁ・・・とも思いましたが
亜子の前だけなら・・・という一面があってもいいか、と良しにしました。
いかがでしょうか?
亜子も、病み上がりで一生懸命理性を保とうとしたんですが・・・。
恵太に落とされてしまいました(笑)。
朝決意したばかりだったのに(笑)。
でも、好きになってしまった気持ちはそう長くは抑えられないので・・・。
長いこと煮え切らなかった二人が、ようやくゆっくりと動き出しました。
これからも見守っていただけたら嬉しいです。