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26・秘密 2

指導室の前で、扉をノックする。



…。



(良かった。誰もいないみたい)



返事のない事にホッとして、中へ入る。


広さ10畳ほどの空間に、真ん中には長机とパイプ椅子が並び、

その両側の壁に建てつけられた棚にはそれぞれランクや志望校、

資格試験用などに分類された資料や文献が

びっしりと詰まっている。


亜子は、机の上に資料を置き、

部屋の一番奥まで進むとこの部屋唯一の小さな窓を開けた。


人気のない部屋の窓は、めったにあけられることがなく、

鍵も固い。


ぎしぎしと、嫌な音を立てながら開いた窓から、

春から初夏へと向かうときにだけ感じる、清々しい空気が

心地よい風とともにあっという間に部屋をを満たした。


その風を感じながら、亜子は急いで携帯を取り出す。


(やっぱり!)


手にした携帯の、小さなライトが点滅していた。

その色は、亜子に新着メールを知らせる色。

先ほどポケットへ忍ばせるとき、光っているような気がしていたので

この点滅が嬉しくて頬が緩む。


はやる気持ちのまま、ボタンを押しメールを開く。


文面は短く、一瞬で読み終える。


それでもそんなことは関係ないのだろう。

亜子は頬の筋肉が完全に緩んだ、しまりのない笑みを隠せないでいた。


メールを読んで、一人でニタニタしているなんて

きっとイタイ人だ。

自分でそう思いつつも、意志とは無関係に顔は緩む。


何度も何度も読み返したあと

返事を打つ前に、ふっと空を見上げた。


白い雲がポツリポツリと浮いているだけの

穏やかな夕焼け空が広がっていた。


「ふーっ、いい気持ち」


窓の桟に手をかけ、軽く目を閉じ、胸いっぱいに空気を吸い込む。

まるで自分が浄化されたような気がするから

心地よい風の中での亜子は深呼吸が好きだった。


風が髪をいたずらに舞わせ、乱していくのもこのときばかりは気にならないから不思議だ。


その時、手にした携帯が突然、震えだした。


「わわっ!!」


あまりに突然で、携帯を一瞬手から離しそうになる。

窓から落としてしまう寸前でどうにか握り直し

慌てながら相手が誰か確かめる間もなく、電話に出た。


「ももも、もしもしっ!?」


『ぷっ、すごい慌てぶり』


「え?」


その声と言葉に、心臓がより一層騒ぎ出す。


『なんか、いいことあった?すごい、ニヤニヤしてた』


相手が可笑しそうに笑いを堪えながらそう続けた。


「な、何で!?」


亜子は恥ずかしさと驚きで、夕焼けに負けないくらい顔を真っ赤にしながら慌ててあたりを見渡した。

そして不意に、校舎の下を覗き込むと――――――――。



「あっ」



先ほどのメールの送り主でもある恵太が

右耳に携帯を当て、眩しそうに上を見上げながら、笑っていた。



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