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25・秘密 1



新緑が一段と濃くなる5月の連休が終わる頃。


初々しかった新入生も制服が体になじみ

気の会う仲間も増えて

学校生活にも慣れたように見受けられた。



それは亜子たち新米教師も同じで、生徒たちの顔と名前が一致し

授業も一応進むようになってきた。


授業で使う教材の準備や、プリントの作成、

先輩教師にチェックしてもらう指導計画書の書き方なども

やっと要領を得てきた。


朝礼や職員会議でのやり取りで、先生同士の性格もなんとなく

掴めはじめたし。


日々勉強で、なかなか自由な時間はなかったが

亜子も、そんなめまぐるしくも充実した日々を過ごしていた。



亜子は一日の担当授業を終えて、職員室へと戻ってきた。


自分に与えられた席に着き、うーんと一つ、背伸びをする。

少し慣れてきたとはいえ、授業はまだまだ緊張する。

自分ではそうでもないと思っていたが、終わったあとすごく肩が凝っていて

余計な力が入っていたんだなぁと実感する。


社会人1ヶ月。


そんなに何もかも、うまくいくほど甘くはない。

実際先輩の先生の授業見学に行くと、天と地ほどの差の指導力に

愕然とし、自信がなくなる。


特に難関校の英文科などを目指すコースは

必死にメモを取っても追いつかないくらいで自分も生徒として

授業を受けたくなる。


「誰だって最初は素人ですから。今からいくらでも伸びていきますよ、

雛沢先生は」


落ち込んでいる亜子の顔を見て、先輩の指導教師は

優しく声をかけてくれるものだった。


(いけない、いけない!!

落ち込んでうまくいくわけじゃないんだし、

今できることやろう!)


そう思って亜子は、立ち上がった。


今日使った資料を英語科指導室の資料棚へ戻すためだ。

ついでに明日使う分も今取り出しておいて、職員会議までの間

目を通しておこうと考えた。


席を発つ前に、自分の引き出しからそっと携帯を取り出し、

ポケットへサッと入れた。


別に携帯禁止ではないし、休憩時間は職員室や指導室、更衣室での使用は認められていたので

堂々と使えばいいのだが

亜子いまだ、職員室で使えないでいた。


空いた時間を惜しんででも、勉強をしなくちゃ追いつけないわたしが

のんびり携帯を使っていてもいいのかな…。


そうと思うと、元来の真面目な性格もあって

とても取り出せなかったのである。


それでも最近は、携帯をどうしても覗き込みたい理由があり

こうやってこっそりと忍ばせては、一人になれる場所とチャンスを伺っていた。


資料を持って校舎の4階にある指導室へと向かう。

途中何人かの下校中の生徒とすれ違い、

他愛無い話をしたり、挨拶をしたりして

そんな些細な時間こそ、教師になれた喜びに満ちていて

温かい気持ちになった。



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