22・帰り道 1
店を出て。
亜子はしばらくご立腹のようだった。
その小さな肩にぐっと力をいれ、両手を前にバッグを持ち
頬を赤く染め少し膨らませていた。
口先は不満に満ちて、口をついて出そうな文句を押し殺しているのだろう。
――――― 数分前 ―――――
恵太の鬼気迫る勢いの告白を思いもよらず受けてしまった店主は
やっとの思いで「お…お相手が違うのでは…」と搾り出した。
しかし、当の本人は、見当違いもいいところなのに「見事してやったり!!」とでも言いたそうな、
一仕事終えた職人のように清々しい顔をしているものだから、
店主――――40代後半のナイス・ミドルと本人は思っている鈴木という男―――は、
恵太に今まで感じたことのない一抹の不安を覚えた。
この、男の敵のような完璧なルックスと身のこなしの男…。
実はとんでもなくアホ…ではなくて、天然なのではないのか…。
元来からの面倒見のよさから、恵太の恋愛成就率が
果てしなく低い気がして
「何でも相談に乗りますから」
そう言って連絡先を渡したのだった。
ちょうどそのとき恵太と鈴木の話し声に気がついた亜子が
レジに近寄り、連絡先を交換している恵太が、会計まで済ませていたことを知り
ご立腹と相成ったわけだった。
「先生」
恵太は数歩前を歩く亜子の背中に声をかけるが
「…話しかけないでっ」
振り向きもせず、ずんずんと歩を進める。
仕方なく、恵太は少し大股で数歩進むと
あっという間に亜子の隣に並ぶ。
「怒ってるの?」
「ち、近寄らないでよっ。半径2m以内への立ち入り禁止!!!」
バッグをぶんぶんと恵太に向けてふり、到底2mには及ばない半円を描いて
けん制した。
そのバッグを避けながらまるで小学生のような亜子の様子に
恵太は目を細めた。
「悪かった。今日は楽しかったからそのお礼として出しただけだから」
「わ、私だって、オトナの意地があるのよっ意地!!
おごってカッコいいオトナな女性の魅力むんむんしたかったのにっ」
「むんむん、て…」
あまりの言葉に思わず噴出すと、また亜子の気に障ったようで
「っ!!!もぉいいっ!!!
恵太君なんて知らないから!!!」
「あ、待って!!」
恵太を置いていくべく、歩くスピードを上げようとしたとき。
恵太の手が、亜子の細い腕を捕らえた。