21・最初の晩餐 3
頬を紅潮させながら感激している亜子を見て
食べていないのに、すでに甘い気分で満たされていた恵太は。
「良かった。俺のもいいよ」
「本当!?恵太君、食べないの?」
そう言いつつ、その手のフォークはすでに恵太のお皿に向かおうと
戦闘体制の亜子に
また、恵太は微笑がこぼれる。
「…俺、甘いもの、少し苦手だから」
本当はつついてみたい気がするレアチーズケーキを見た後、
亜子に視線を戻してそう答えた。
こんなに喜んでくれるのなら、
自分が食べるより、きっと、うんと、幸せだ。
そんな恵太に、亜子はまるで少女のように目を細め、
その小さな顔いっぱいに笑った。
「恵太君、優しい!!太っ腹!!!男前!!!」
「…先生、酔ってるだろ…」
思いつく限りの賞賛を浴びせてきた亜子に
疑いの目を向ける。
先ほどの居酒屋でどれだけ飲んだか知らないが、
ここに来てから、数杯のビールとワインを飲んでいた。
「うーん、どうだろ。どうなのかな…。分からないってことは酔ってるかも?」
フォークをパクリと口に咥え、真顔で恵太に答える。
「…」
そう言ってなんの悪びれた様子もなく、すぐににっこり笑った後。
その細いからだのどこに収まるんだ!?というような勢いで
恵太の分まで、見事に完食した。
「はぁぁ、食べた~。幸せ~」
満面の笑みの亜子を確かめてから
恵太も微笑み返し
「ちょっとトイレ」
「あ、うん」
そう言いながら、亜子に気付かれないように伝票を持って
トイレに行った。
その後、柱のおかげでちょうど死角となり
亜子からは見えない位置にあるレジで会計を済ませた。
店主に先ほどのケーキの礼を言い、軽く会話をしながら
おつりを受け取る。
「可愛らしい彼女さんですね。放っておけないでしょう?」
などとからかわれるから、ぎょっとした。
「や、そんなんじゃないので」
曖昧に笑うと、今度は店主のほうがぎょっとし、動きを止めた。
「そうなんですか?いや、私はてっきり…。それは失礼しました」
「いえ…」
そういいながら財布におつりを戻していると
「じゃあ、ライバルが多くて大変ですね。あんなに可愛らしい方だと」
「…はい?」
「頑張ってください。応援しています!お付き合いが始まったら、またいらしてください。
たっぷりサービスしますので!!」
…ん?
恵太は一瞬状況が読めなかった。
応援されている。
付き合いが始まったら、と言っている。
…あぁ、そうか。
そういうことか…。
店主とのやり取りで妙に納得した恵太は、
先ほどからの胸の高揚感の意味がやっと分かり、
清々しい気分だった。
恵太は店主の顔をじっと見据えた。
「…あの…」
「はい、なんでしょうか」
「俺、好きです」
…。
…。
「…お、お相手が違うのでは…」
見当違いの告白に、店主の反応がうんと遅れたのは
言うまでもなかった。
遅いっ!遅すぎます、恵太!!当初、私が思っていた以上に恵太の動きは鈍く、亜子も幼く…。
こ、これが味だと信じて、もう少し、このまま様子を見てみたいと思います。