20・最初の晩餐 2
どれくらい会話と食事を楽しんでいただろうか。
二人の元へ、店主と思われる先ほどの男性が近寄ってきた。
「ご満足いただけていますか?」
人のよさそうな笑みを浮かべて、亜子と恵太を交互に見た。
やっと飲み込んだパスタの感激を伝えたい亜子は、
すぐさま店主を向き直り、いっぱいの笑顔で
興奮したように、身振り手振りを加えながら一生懸命店主と話し込んでいた。
元々話し上手とは言えない恵太と比べ
亜子は、社交的というのか人懐っこいというのか。
初めて会った人とも驚くほど気さくに会話を楽しみ、
また広げているように見えた。
くるくると変わる愛らしい表情。
よく笑う口元。
自分とは違う、感情がすべて顔に表れる
素直な、嘘のつけないような亜子に
恵太はただただ、見惚れていた。
会話の拍子に亜子の手が、水の入ったグラスに当たりそうになっていることが気になって
会話を遮らないように注意を払いながら
さりげなく、自分のほうへ引き寄せた。
その様子を黙って見ていた店主は、少し微笑んで
「優しそうなお連れ様ですね」
と、亜子に向き直った。
亜子は一瞬驚いたように恵太を見て、
同時にみるみる顔が赤くなっていった。
「え、あ、はい。えへへ・・・?」
なんとも間抜けな、あいまいな返事で恥ずかしそうに
手をパタパタさせて自らの顔を仰ぎ、今恵太が引き寄せたグラスをガバッと掴み
一気に飲み干した。
その慌てぶりに、恵太は思わず吹き出した。
「…ククッ…」
「ちょ、ちょっと!恵太君!!笑わないのっ!!!怒るよっ」
ますます赤くなりながら、亜子はその頬を膨らませた。
そんな亜子と恵太を見ていた店主は
「仲がよろしいお二人に出会えた記念に、わたしから」
そういってテーブルの上に小さなケーキが3つ乗ったプレートを2つ、置いた。
「わぁ!」
亜子は怒っていたのも忘れて、その繊細な細工を施された、
小さな宝石のようなケーキに目を輝かせていた。
「嬉しい!いただいてもよろしいんですか?」
「もちろん。奥の彼女の手作りなんですよ」
そういって、カウンターの中で忙しそうに動いている先ほどの女性を向いた。
「素敵・・・ね、恵太君・・・」
先ほどの輝きとは違い、なんと言うか――――温かな、何か大切なものを見つけたような――――
その職人技に心奪われ、惚けているように呟いた。
「左から洋ナシとカスタードクリームのプチ・タルト、3種のベリーソースのレアチーズケーキ、メイプルシロップとダージリンのシフォンケーキにピーチクリームと、バニラビーンズクリーム添えです。さ、冷たいうちに召し上がれ」
そう言うと店主は軽く会釈をして、戻っていった。
「恵太君っ!どうしよう!!おいしーー!!」
すでに口に運んでいた亜子は、
じたばたと体を揺らしながら感激していた。
その様子は、学校でしゃんと背筋を伸ばして
一生懸命教えている亜子からは想像も出来ないもので。
恵太は自分だけしか知らない亜子の姿に、優越感を得、そして完全に酔っていた。
陳腐な言葉だが、
そんな亜子を見て
本当に幸せで
愛しいと思った。
すっかり久々の更新となってしまいました^^;
その割りに相変わらずウダウダな二人ですが、もうすぐ?!動き出しますので
温かく見守っていただければ幸いです。