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2・キレイナヒト

まるでスロー再生された映像のようだった。



ぶつかった相手は一瞬よろめいたものの、ゆっくりと顔を上げると

真っ直ぐに恵太の目を捉えた。


黒目がちの大きな瞳のせいなのか、ひどく幼く見えた。

もともとまつげが長いのだろう。

目尻は自然にカールし、その愛らしい瞳の

何よりのアクセサリーになっていた。


化粧っ気はあるが、恵太がいつも目にするモデル仲間のそれとは

かけ離れていた。



肩より少し長い髪の毛は、柔らかな栗色で

色白の肌に良く映えていた。


毛先をゆるく巻いてあり、

丁寧に手入れしているのだろう。

毛先まで艶めいていた。


恵太が大きいせいもあるだろうが、

相手の女性は恵太の肩に届くか、届かないか。


とても小さく、壊れてしまいそうだった。


着ている物がスーツではなく、

私服だったら、同じ高校生に見えそうだった。



「あ、あの、ごめんなさい・・・」


「!」




恵太が動けなくなったもう一つの理由。





それは声だった。






まるで小さな鈴が鳴ったのかと思うほど愛らしく、

控えめな透き通った声に、恵太は放心していた。




「…」




「すみませーん、ツレがボケボケしてて〜。

怪我、ないっすか?」



何も応えない恵太にしびれを切らしたように、

暁がたちまち、その女性に駆け寄った。



「い、いえ、大丈夫です。ごめんなさい、

慌てて階段昇ってたら、前見るの忘れてて」



たはは、と照れ臭そうに笑いながら暁を見ていた。




「あー、分かります。よくありますよねー、

駅の階段とか!ムキになって上ったとき!!」




調子よく合わせる暁は、やはり女慣れしているというか、

距離を作らせない配慮が出来る人間だと言えそうだ。



「あ、あの、本当にごめんなさい。大丈夫ですか?」



心配そうに恵太を向き直り、やはり真っすぐに見つめながら尋ねてきた。




あぁ。このヒトは

こんなにシンプルなのに、人を引き付けることが出来るのか。






「…おい、恵太?大丈夫か?」





暁の声に弾かれたように我に返った。



「え、あ、あぁ。悪い」


「イヤ、いいけど…。・・・お前、どうすんの?」



どことなく歯切れの悪い暁を不思議そうに見る。



「何が?」


「…ソレ」


暁の指差したほうに目をやると………。



よろめいた女性をとっさに掴んだのだろう。



恵太の右手は、しっかりと女性の左腕を掴んだままだった。




「あ、す、すみません」




慌てて解放すると、女性は真っ赤になって

そしてちょっと困ったような顔で笑った。



「いえ、大丈夫です」



自分の顔がちりちりと熱を帯びていくのが分かった。

その女性から、目が離せなくなっていた。



「あ、あの・・・。職員室ってどこでしょうか・・・。

わたし、迷ったみたいで・・・」



ものすごく照れくさそうにそうたずねた。



「職員室ですか?こっちの南棟じゃないですよ。

渡り廊下の向こう側の北棟の3階で・・・」



身振り手振りを交えながら、

暁が説明して、

その女性がものすごく方向音痴なんです、

とか答えて。


暁がまた調子いい事を言って、2人で笑う。


そんな様子をただただ、横で観客のように

見つめていた。



「ありがとうございます。じゃ・・・」


「お気をつけて!」



軽く会釈して、今恵太たちが通ってきた

渡り廊下を進んでいった。



「お前、ダイジョウブ??」


暁の呆れた声を遠くに聞きながら、

ポツリ、とつぶやいた。



「・・・キレイな、ヒトだな・・・」





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