17・想定外・想像以上
結局、恵太と亜子は取り残される形となった。
数分前、亜子が暁に電話をしてみると、
もうそろそろ、あちらもお開きにしようか、
ということになって解散したらしい。
となると、亜子も恵太も戻るという選択肢が消えることになる。
亜子が、携帯を渡しながら
「恵太君、ご飯まだなんだって?」
と、聞いてきた。
まだというか・・・。ちょこちょこつまんだりはしたので、
食べていないともいえないし・・・。
携帯を受け取りながら
なんて答えようか思いあぐねいていると
「岡田君が言ってたの。恵太君遅れて来たから、あんまり食べてないって」
先手を打って亜子が質問の種を明かした。
暁だったか・・・。
でもなんでそんなことを?
そう思っていたとき、先ほど返ってきた、
手の中の携帯がブルッブルッと2度、短く震えた。
それはメールの着信を知らせる合図だった。
画面を見やると、その暁からだった。
frm:暁
sub:頑張れ!
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お疲れ(^▽^*)丿☆
俺らはこれから、ヒロさんたちと
二次会行くわ~。
恵太は亜子ちゃんヨロシク。
チャンスだ恵太!!頑張れ!!!
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・・・何をだ?
恵太は意味の分からないメールに、困惑した表情を見せる。
何で、あの男たちと二次会なんだ?
さっきは先生に解散したと言っていたのに。
そんな訝しげな表情の恵太を見て、亜子は心配そうに聞いた。
「恵太君、大丈夫?お友達?」
「や、暁。大した用じゃない」
慌てて携帯をズボンのポケットに押し込む。
なぜかとっさに嘘をついてしまった。
二次会に行くなんていったら、また飲酒騒動がぶり返す。
そう思ったのと、もし二次会を知って、亜子が戻ると言い出したら・・・。
なぜか、亜子があの男のいるところへいくのは面白くなかった。
先ほどは自分が「戻るなら、送る」と言ったのに。
そんな恵太の考えなど知るはずもない亜子は
「本当は、いけないんだろうけど・・・」
と言いながら、少し俯いたあと。
意を決したように、恵太を見上げた。
「ご飯、食べてかえろっか」
わたしも食べ損なって、お腹すいちゃったの、と続けて笑った。
街灯の下、照れくさそうに笑う亜子が、
とても自然体に思えて、訳もなく満たされた気持ちになる。
もう少し、先生と一緒にいられる。
「・・・先生の、おごり?」
自分でも浮き足立った気持ちを抑えられずに、
頬が緩んでいくのが分かった。
一方の亜子も、可笑しそうに吹き出したあと、
「もちろん。先生に任せなさい!」
と、大げさに胸を叩いて見せた。
その様子が可愛らしくて、思わず見惚れそうになる。
緩みの止まらない頬を見られないように、
恵太はクルリと後ろを向いて。
「じゃ、俺、寿司ね。回らないヤツ」
いたずらっぽくそう言うと、亜子を置いて歩き出した。
「あ、うん・・・って、えぇぇぇ!!??」
一瞬にして笑顔が消えて、大きな瞳がさらに大きく見開かれた。
慌てふためきながら、追いかけてくる亜子の様子を背中で感じながら
恵太は肩を震わせ、笑い声を必死に抑えていた。
やべぇ・・・想像以上に楽しい・・・。