15・反則技 ~亜子編 1~
恵太の、本人すら自覚していない反則技に
頭のてっぺんからつま先まで貫かれてしまい、
身動きできない亜子。
そんな亜子に、
恵太は可笑しそうに笑ったまま、
「先生、顔真っ赤。大丈夫?」
そう言って、背の低い亜子に合わせるように
その長身を折り曲げながら、顔を覗き込んできた。
無邪気に顔が近づく。
完全に射抜かれていた亜子にとって、
その行為は毒でしかなく、思わずはっとして反射的に顔を背け
不自然なまでに後ずさりした。
「も、もう!大人をからかわないのっ!!
何よ。一生懸命追いかけて損しちゃった」
照れ隠しに手グシで髪を
整えてみせる亜子。
本当は自分の気持ちを整えているのを
悟られないようにと祈りながら。
「ははっ、ごめん。先生、何も悪いことしてないのに。
ホント、ごめん」
ちらり、と横目で恵太を盗み見すると。
今度は先ほどの大人びた笑顔とは違い
きれいな顔を、惜しげもなく、くしゃくしゃにして笑っていた。
片手を「ごめん」と、顔の前で立てながら。
その顔をまともに見られるはずもなく。
咳払いをしながら不自然なまでに夜空を仰ぎ見た。
冷めるどころか、ますますちりちりと熱い頬に、
亜子自身も、すっかりうろたえていた。
耳元に心臓が移動したんじゃないかと思うくらい、
自分の鼓動が煩くて敵わない。
相手は生徒なのに!
年下の18歳の男の子相手に完全に見惚れてしまった。
完全にペースを持っていかれていた。
し、しっかりしなさい!!
なんて自分に檄を飛ばしてみるも、効果なし。
当の本人は、亜子の気持ちなんて知る由もなく。
夜空を見上げる亜子を不思議に思ったのか
長い両手を空に突き上げるようにグーンと背伸びをしながら夜空を仰ぎ。
「何が見える?」
なんて、言い出す始末だった。
「な、何も見えないな、と、思ってっ」
・・・あぁ、もう、何を言ってるのか分からない。
もうこのままここからダッシュで逃げるか、
いっその事消えてしまいたい!!
顔のやり場を失った亜子は俯くしかなく、
自分の体が小さくなって行けばいいのに、なんて考えていた。
亜子の答えに伸ばしていた両手をパタン、と下ろし
きょとんとしていた恵太が、
ふっと優しい口調で言った。
「とりあえず、どこか座る?それとも、戻る?」
「え?」
恵太がなにやらポケットをごそごそしながら続ける。
「先生走り疲れてるみたいだし。
俺は、もう戻らないけど、先生友達と一緒なんだろ?
戻るなら店まで送る」
取り出した携帯の画面を確認し、いじりながら
「暁からメールだ」
と、つぶやいた。
その言葉に亜子は、弾かれたように
恵太の腕に近寄った。
「あ!忘れてたっ!!」
恵太の手にある携帯を指差して
「あのね、岡田君に『恵太と会えたら
電話くれ』って言われてたんだった」