12・ゲームの行方 1
恵太が出ていく背中を、亜子はただただ立ち尽くして見送るしか出来なかった。
恵太がなぜ、怒ったのか分からなくて混乱した。
恵太が見せた、自分を拒絶するような、軽蔑したような目が
すごく怖かった。
そして。
恵太を疑って傷つけた自分が、すごく恥ずかしかった。
知らず知らずのうちに、手が震えていた。
手を口元に当てて、何とか震えを押さえようと
両手を握り締めてみるけれど、それは収まりそうになかった。
「あ~あ、恵太、怒らせちゃった」
暁が、わざとらしく。
がくっと肩を落として苦笑いしてみせる。
「まぁ、なんだ、その。先生のせいじゃねーよ、うん」
頭をかきながら、悠斗は亜子を落ち着かせようとして声をかけた。
「たださ・・・」
ふっと顔を上げた暁は、今まで見せた事のないような
真剣なまなざしで、こう、続けた。
「恵太のこと、信じてやって。
あいつは、絶対飲んでない。やましいことは何一つしない」
「・・・」
暁の言葉に続くように悠斗も亜子に顔を向けた。
「あいつ、モデルやってるの知らない?」
「・・・モデル・・・?」
諌山君が・・・モデル?
「あぁ・・・どこかで見たことあると思ったら、駅前の看板だ」
亜子の隣でヒロがつぶやいた。
そんなヒロを一瞥して、暁は続けた。
「あいつ、仕事にスゲー誇り持ってやってるんだと思う。
絶対飲まないし、女遊びもしない」
「俺たちと違ってね」
悠斗がからかうように言う。
「今日だって、俺が無理やり約束取り付けて来させたんだ。
恵太ダシにして合コンセッティングした手前、
俺の顔立てるために来てくれたんだよ」
最後のほうは個室内にいる女子大生に聞こえないように
声を潜めて笑って見せた。
可笑しそうにくくっと笑って、悠斗が続ける。
「人に見られる、夢を与える仕事をしてるって自覚があるから、
絶対裏切らないよ?アイツは」
暁も悠斗も、心底恵太を大事にしているのが伝わってきた。
そして、恵太も、彼らを大事にしている。
だから、諌山君は侮辱された気がして怒ったんだ・・・。
「わたし・・・。ひどいこと、しちゃった・・・」
言葉に出すと、自分のしてしまったことがますます自覚できて
なんだか目頭が熱くなった。
思わず下を向くと。
「亜子ちゃん、今ならまだ、間に合うよ?」
「・・・え?」
ふっと顔を上げると、そこにはいつものニヤリ、と笑った
いたずらを思いついたような暁の顔があった。