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【書籍化】<本編完結>これで満足しましたか?〜騙された聖女は好きな人も仲間も全部捨てたのに王子が追ってくる〜  作者: せろり
本編

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22.5 はじまりの魔王 4



「ミザリー皇太子妃殿下がこの村にいらっしゃるって?」


 この村に来て何日がたったのだろう。ただただ無気力に生きていた私の瞳に生気が宿る。ミザリー。私から意味の分からない勝手な理由で全てを奪った人。自身を転生者と言い、国と共謀して私を断頭台に立たせた挙句、自分の名声を上げるために私を利用した狡猾な女の名だ。


「あ、あの行列そうじゃない?」


 普通こういうのは先に伝令が届く筈だが、村の住人は知らなかった者が多いのか、珍しい光景にほぼ全ての人が外に出る。私は気になったものの、手を止めると村の住人達に咎められるので持ち場に戻って仕事を続けた。



「お元気ですか」

「・・・・」


 薄々分かっていたけれど、皇子妃殿下がこんな村に来る用事なんて一つしかない。洗い場で洗濯していた私は呼びつけれられて今ミザリー様とアラン様、そしてその側近たちの前で跪かされている。


「ミザリーの質問に答えないか」


 彼女の言葉に元気なわけないと言うか言わないか迷っていたら、アラン様が不機嫌そうに言った。一時はあんなに恋焦がれて声を聞くだけで胸が熱くなったものだが、今は嫌悪しか感じない。


「痛っ!」


 不快感で言葉を呑み込んでいるといきなり襟首を掴まれて地面に叩きつけられた。骨が折れる程の力ではないものの、顔面が床に叩きつけられて悶絶する程に痛い。いつのまにか背後に回っていた近衛騎士の一人が私を押さえつけていた。


「ミザリー様がお前の様子が気になるとお慈悲をかけて忙しい合間に来てやったというのに、あなたは無礼ですね。流石は魔女殿。人間の言葉は通じないようだ」


 アラン様の後ろに控える天才魔術師は不愉快そうに、汚いものを見るように地面に押さえつけられている私に言った。そんな彼らをギロリと睨みつける。するとすかさずミザリーの背後に控えていた騎士団長の息子が前に出てきて、彼女を守るように身構えた。


「・・は、」


 そんな彼らを見て、怒りを覚えているはずなのに思わず失笑してしまった。こいつら、こんなところまでミザリー様に金魚の糞のように着いて来るなんて。まだミザリー様が好きなのだろうか。自分が貶めた相手がちゃんと不幸になっているか確認するためにわざわざやってきた、こんな性悪女の事を。


「・・まだ、状況が分かっていないようですね。あなたは私の慈悲で生かされているのですよ」


 きっとミザリー様は恋をしていた皇子様に振られ、死刑にまで追いやられた挙句、こんな何もない村に閉じ込められた私を見て”ヒロイン”という運命に勝ったと実感したかったのだろう。

 けれど嘲笑した私に眉をピクリと動かすと、そんな言葉を放った。まるで私があなたを救ったのよと言わんばかりに。


「皇族、ひいては国を騙すことは当然死罪に値すること。けれどあなたは異世界からいらっしゃったからこの世界のルールを知らなくても仕方のないけれど。私の同郷でもあるあなたを可哀想に思った私の嘆願により生かされているのです。でもそれはあなたの反省が前提です。ですがあなたは反省していらっしゃらないようですね」


 まるで聖女のように慈愛に満ちた表情で語っているが、言っている中身は最悪だ。恩着せがましいにも程がある。けれど周りは彼女の信者ばかりで気付かない。


「・・こんな生き地獄を味わわせておいてよく言う」

「? こんな高待遇を用意したと言うのにまだ足りないと言うのですか?」


 思わず出た言葉に、ミザリー様も心底不思議そうに返してきた。きっと心からそう思っているのだろう。


「死を免れて、平和な村で国の税金で生活が補償される。罪人にこれ以上の待遇があって?」


 私は拘束されているのも忘れて、私はただただミザリー様を見上げる。


「・・本気で言っているの?」

「もう少し、殊勝な態度を期待していたわ」


 呆れたようにミザリー様はため息を吐く。


「死刑を求めて熱狂する民から守るためにあなたを牢に隠した。本当はあの後内政部からもあなたに刑を執行しろと何度も要求されたのだけど、あなたを守るためだったのよ」


 地下牢と言われて思わず吐きそうになった。ミザリー様は知らないのかもしれないけれど、私はあそこで看守に襲われた。罪人に人権はないのだと。あの開けた場所で私は初めてを散らした。やめてと叫んでも誰も助けてくれなかったし止めてもくれなかった。横からは壁で姿は見えなかっただろうが、下品な野次は飛んできた。


「あなたは私たちに感謝するべきだわ」





 その瞬間、感情が爆発した。

 そして、気付けば私は知らない場所にいた。



 けれどそこがどこかも気にならない位、感情が荒れている。



「素晴らしいエネルギーだ。これは異世界人の成せる技なのかな」


 いつの間にか気配もなく私の前に立っている人がそう呟いた。しかしそんなことよりも、私は荒ぶった感情に呼吸が乱れて空気を吸うことに精一杯だった。


 この世界に絶望して死んでいたと思っていた心に、ドロドロとした感情が溢れて止まらない。


 憎い。悲劇のヒロインぶって私を罠に嵌めたミザリー様が、自分勝手に私を利用したアラン様が。私に暴力を振るった看守やこの村の人たちや、私の事情も知らずに罵った住人が。

 この世界の全ての人が憎らしい。


「久々に美味しい食事をしたなあ。そうだ、お礼に何か願い事を何でも一つ叶えてあげるよ」


 私が一体何をしたのか。あなた達の何を奪ったというのだ。それは私の死を願われ、食事を抜かれ、拳を叩き込まれて、女としての尊厳までを踏み躙られるほどのことなのか。


「さあ、君は何が望みだい?」


 何故、私がここまでされなければならない。私だけが不幸を被らなければならないのだ。

 お前達も同じ苦しみを味わえ。それ以上の代償を支払え。


「この世界の人達なんて、みんな滅んでしまえ」


 胸に吹き荒れる感情に呑まれた私に、この目の前の人物の言葉なんて耳に入っていなかった。けれど心の声が漏れ出たその瞬間、その人物はにやりと笑った。


「うーん。その内容だと少し条件が付いちゃうけど、いいよ! 君に新しくて圧倒的な力をあげよう」



 それが、この世界に初めて闇魔法が生まれた瞬間だった。


















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