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「ここは、魔王城か・・?」


4年前は沢山の上位の魔物が闊歩していた城は、もはやその面影は無く静まりかえっていた。

辿り着いた先は最終決戦の玉座の間。勝手に着いて来た王子様は、まさか魔王城に行くとは思っていなかったようで驚いている。私はそんな彼を放置して、奥の魔王が座っていた玉座に向かった。


「・・・・」


しかしそこには何も無く。ただ豪華な装飾が施された古びた椅子があるだけだ。


「ヒカリ?」


きょろきょろと注意深く部屋を見渡す。そんな私に王子様は首を傾げながらも着いてきた。はっきりとは分からないが、私の勘がここに何かあると言っている。


「・・多分、玉座の後ろに部屋がある」

「!」


私が何かを探していると察したのか、王子様はそっと玉座の後ろに垂れ下がっているカーテンや垂れ幕の奥を指差した。他に手掛かりが見つからないので、大人しくその言葉に従ってその布をめくってみると、扉が現れた。


「うわぁ・・」


その扉を開いて中に入ると、正面に飾ってある大きな肖像画がまず目に入る。しかし思わず声を上げたのはその顔の部分が原因だ。どれほどの恨みを持たれていたのか、その肌や髪色が分からない程メッタ刺しにされ塗料が剥がれている。そこに感じる狂気に身震いした。


「奥にも部屋がある」


視界にホラー肖像画が映らないよう目線を逸らすと、王子様が右側のドアを開けている。その先にある部屋を覗くと、天蓋ベットとデスクがあった。どうやら最初に入った部屋は執務室で、この部屋は寝室のようだ。


「・・ヒカリ?」


なんとなく直感だった。デスクの引き出しを開くと、そこにあったものに息を呑む。


“肖像画を見ろ”


それは1枚の紙に書かれた日本語だった。


「っ」

「ヒカリ!」


急いで前の部屋に戻ってズタズタにされた肖像画を覗き込む。もう恐怖は感じなくて、何かに急かされている感覚だった。


“この文字が読める同郷の人へ。

もし、あなたがこの世界で不幸せを感じているならば。

急いで原初の魔王が滅ぼした国の、最北端の教会へ向かいなさい”


「ねえ、一番最初の魔王が現れた国ってどこにあるの?」

「ヒカリ?どうしたんだ??」

「どこにあるの!?」

「・・待て、地図を探す」


後ろで私の動向をずっと黙って見守っていた王子様に問いかける。逸る気持ちについ怒鳴りつけてしまうが、彼は気にする素振り無く執務室の本棚から地図を取り出した。


「ここだ」


そこは授業で教わった事の無い国。つまりもう滅んだ国という事だ。

方向と位置を確認して、転移魔法を発動させる。王子様は何か聞きたげだったが、私の顔を見て結局何も言わずに手をそっと握った。また勝手に付いてくるのかと思う余裕がないくらい、今の私は焦燥に駆られていた。













微調整を繰り返し、メッセージに書かれていた最先端の教会らしきところに辿り着いた。

おそらくずっと昔に人が住んでいたのだろう。古びた家や家畜小屋がいくつかあったが全て崩壊している。さらに数百年単位の年月が経過しているため、その残骸の上には草木が生い茂っていた。

その中で一際大きな建物がおそらく記載のあった教会だろう。こちらの方も損傷が酷く、柱や床の一部しか残っていなかった。これでは建物というより瓦礫と呼んでも差し支えなさそうだ。


「・・・・」


こんな荒屋とも呼べない場所に何があるのだろう。恐る恐るその教会の中に入り周りを見渡すが、瓦礫しか見当たらない。


「・・ヒカリ、地下に隠し部屋がある」

「え」


お城には王族しか知らない隠し通路とかがあるらしいと噂で聞いた事がある。その秘密を知っている本人だからか、先程から建物について色々詳しい。無断同行に少し思うところがあったが、結構役に立つので目を瞑ろう。私だけじゃ絶対見つけられなかった・・。


「何があるか分からない。私が先に行こう」


ガチャガチャと何かを王子様が弄ると床に隠れていた扉が開き、地下へ続く階段が現れた。彼はキリッとそう言って階段をさっさと降りて行く。家ではあんなおどおどしていたのにと少し不満に思うが、まあ何かあったら遠慮なく盾になってもらおうと思い直し、私も階段を降りて行った。


「・・ここは」

「酷いな」


階段を進むと、そこには小さな小部屋がいくつかあった。地下だからなのか当然窓は無く、空気が澱んでいる。家具は簡易ベッドと小さな机と椅子のみ。いくつかの部屋を物色すると、やはり予想していた通り日本語で書かれた本が出て来た。


「それは・・?」


パラパラと捲って中身を見る。それは日記帳だった。


「・・・・」


1時間ほど掛けてそれを読み終わり、私は黙って隣の王子様を見上げる。

彼は面白い程青ざめていたが、笑えなかった。


「そんな・・。私たちがしていた事は・・・・」


日記の内容はそのまま音読した。だから王子様も私と同じ知識を共有している。


「エル」


そんな、まさか。と衝撃を受けている王子様の愛称を、4年ぶりに呼ぶ。混乱していても私のその呼びかけに反応したのか、ぶつぶつ呟いていたのをピタリと止めてこちらに視線を向けた。初めて見る情けない顔に何も感情が浮かばない。私だってこの日記帳に書かれている真実に混乱している。


この4年間は正直、自分の気持ちを立て直すのに精一杯の年だった。それでも当然傷が癒えることは無くて。ここ1年はなんとか生きていく為に治療院を建てて働き出してみたけれど、本当は自分が何をしたいのか分からないままだった。未来を考えるのか、復讐したいのか、それとも折り合いをつけて諦めて生きていくのか。


目を閉じて深呼吸をする。この日記が語った真実を思い返して、私の心は決まった。



「再会した日、あの礼に込められてた意味は本当?」


数日前、彼がずっと玄関で跪いていた体勢には、実は深い意味がある。普通であればただの謝罪だ。しかし、礼儀作法の先生が言っていた。動作の一つ一つにちゃんと意味があるのだと。今はもう実際の意味で使われる事は無く、ほとんどの人に忘れ去られているが、王族や大貴族は意味をちゃんと知っているから使う時は気をつけるようにと言われたのだ。


あの日、彼がしていた姿勢は地面に跪き、両手の手の平を上に向け地に付けていた。それは敵意はありません全てをあなたに委ねますという意味だ。つまり、償いのためなら殺されても文句は言いませんという最上級の謝意だった。


「・・本来の意味で受け取って構わない」


先程まで混乱していた王子様は私の言葉に瞬き、そして数秒目を閉じる。その後ゆっくりと開いた瞳は静かに凪いでいた。



「エル。・・エルドレット。あなたには死んでもらいます」


真っ直ぐに王子様は私を見つめ、そして再会した日と同じように跪いた。


「貴女がそう望むなら」









本当は金曜中にアップしたかったのですが、間に合いませんでした。。


もしよろしければ下の評価の★★★★★を頂けると嬉しいです。

他にもブックマークや感想など、いつもありがとうございます。

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