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魔王城での戦いは激戦の連続だった。

さすが敵の本拠地というべきか、ドラゴン同等の上位魔物がたくさん待ち構えていた。彼らは力だけでなく知能も高いので、強くなった私たちですらぎりぎりの戦いを強いられる。

それでもなんとか勝ち進み、とうとう玉座の間らしき大きな扉の前にたどり着いた。


「みんな、ここまでよく来てくれた。感謝する」

「何言ってんの。アタシたちは自分の意思で戦ってるのよ」

「そうだぞ。俺は故郷が滅ぼされたから、その仕返しをしたかっただけだ」

「アタシは恩師の仇を」

「私は王家に仕える騎士ですので、当然のことです」


みんなぼろぼろだ。服はあちこち破け、頬には煤や血がこびりついている。けれど笑顔を交わして軽口を叩き合う。


「ありがとう。・・いくぞ」


その言葉を合図に、荘厳な扉を開いて中に飛び込んだ。

瞬間、風が吹く。


「ぐっ・・!」

「ぅわああ!!」

「きゃあ!!」

「っ」


認識した時には私以外、全員後ろに吹き飛んでいた。


「!!!!」


何事かと振り向く前に、目の前の玉座に何かいる事に気付いて目を凝らす。

そこには黒いもやのようなものがいた。椅子に座っている仕草をしている事から、人型に近いようだ。


「“治癒”!」


奇妙なそれに気を取られるが、ハッとして急いで仲間たちに治癒魔法を施す。瀕死状態だった。最初の一撃でこれほどの攻撃力なのだ。魔力がごっそり抜かれるのを感じ、冷や汗を垂らす。初手で魔王との圧倒的な実力差を見せつけられ唇を噛んだ。

治癒魔法で回復した彼らは、まるで痛みなど恐れないようにすぐさま玉座に向けて駆け寄る。


「くそっ!」

『・・・・』

「きゃあああ!!」


しかし魔王と思われる黒いもやはそんな彼らを一瞥し静かに手を翳す。すると衝撃波のような黒い波動が発生し、再び全員吹き飛んだ。あるものは壁にめり込み、あるものは足があらぬ方向に向いている。


「・・っ」


今まで苦戦はしてもこんなに手も足も出ない戦いは初めてだ。

死という言葉が頭に浮かび、強烈な恐怖を感じる。それでもなんとか治癒魔法をと震える唇で呪文を唱えようとした。


『・・待て』


魔王が私を見据え声を掛ける。先程から闇魔法とは正反対の光属性の魔力を持つ私だからなのかは定かではないが、私だけ魔王の攻撃の影響を受けていなかった。


『・・・・お前、何者だ・・?』

「ひっ・・」


玉座から私の目の前へ魔王がふわりと降り立つ。恐怖で喉が引き攣る。魔王はイメージしていたどの姿とも違っていた。獣型でも竜でも、ましてや人の姿でもない。黒い霧の塊だった。それは頭と胴体と腕らしきものを形作り、足はない。その頭部と思われる部分には2つの光源があり、それはまるで目だけが薄気味悪く光る幽霊のようだった。


『・・もしかして、“聖女”か?』

「え・・?」


圧倒的な力の前で怯えていると、予想外の言葉を掛けられた。

疑問に思う前に見慣れた金髪が視界に舞う。


「ヒカリ!!!!」


先程の衝撃で倒れた筈の王子様が私の前に立ちはだかり、それと同時に剣を魔王に振り下ろした。

華麗な剣捌きによって魔王は見事真っ二つにされるが、それは何事も無かったかのようにくっつき元に戻る。伝承の通り、魔王は聖女以外に倒せないというのは本当のようだ。


『どけ』

「ぐぁぁあああっ!!」

「エル!!」


元に戻った魔王に冷たく言い捨てられると同時に、ボグッと鈍い音がして王子様は地面に倒れ伏す。その瞬間、無意識に呪文を唱えてありったけの魔力を注ぎ込んでいた。


「“浄化”!!!!」

『!』


眩いほどの白い光が玉座の間に溢れる。

本来浄化魔法は対象が弱ったところに放たないと意味がない。一度放ってしまった魔法をキャンセルせず、そのまま発動している魔法にさらに魔力を込める。これ以上王子様に、仲間たちに傷ついて欲しくない一心だった。


「うぁぁあああああ!!」


激しい光の奔流に目が開けていられない。けれどいつも魔物を倒す時に感じる抵抗を全く感じないことに違和感を感じてうっすらと目を開ける。開いた視界に見えたのは、魔王がサラサラと崩れていくところだった。

するとその黒いもやの中にあるぼんやりした二つの光と、まるで目が合ったかのような錯覚を覚える。何故か目が離せない。その瞬間、周りの音が一切聞こえなくなり、やけに静かになった。まるで世界に魔王と私だけが在るかのように。そのまま魔王の全部が崩れるまでお互い静かに向かい合い、そして最後に一言だけ耳に声が届いた。


『・・これで、やっと・・・・』



そうして魔王討伐は無事完了し、私たちは城へ帰った。

最後の浄化魔法に魔力を全て使い切ってしまい仲間たちに治癒魔法をすぐ施すことができず、しばらく療養が必要になって。特に王子様は太ももや背骨の骨折等と怪我が酷く、よく生きてたなあと医者に言われ王様と王妃様は泣いていた。

そんな経緯があって、帰還後はしばらく療養や事後処理とかが必要になり数日城で過ごした。

・・あの日、褒賞の謁見についての出来事が起こるまでは。










ーーー


ここ数年は自分の気持ちを立て直すことで精一杯だったが、昔の仲間に会ったことをきっかけに過去を思い出した。改めて思い返すと気になる点があることに気付く。


「・・魔王の最後の言葉、どういう意味だろう」


歴史の授業で魔王は人々を脅かす存在だと教わった。実際旅の途中でも魔王城の中でも魔物は人に襲いかかってくる。

前はみんなの怪我が重傷すぎて心配だったのとやっと帰れるという気持ちでいっぱいだったため、特に気にせず忘れていた。しかしこうして思い出すと何か引っかかる。


「・・・・」


一度疑問を持つと気になってきた。どうせこの世界でやることなんて特にない。

よし、魔王城に行ってみようかな。

別に何も見つからないかもしれない。それに魔王は消えたけど魔物はまだいるかもしれない。けれど王を失った魔物たちの力は驚くほど弱体化したので、私一人でもなんとかなるだろう。


「“転移”」

「ヒカリ!!」


思い立ったら即行動、と転移魔法を発動する。それと同時に王子様が玄関を蹴破って駆け寄ってきた。まるで見えていたかのような反応速度に驚く。一体どこにそんな察知能力あるんだ。

展開された魔法陣は徐々に光を放ち、視界が白く塗りつぶされていく。起動したらキャンセルできない魔法だ。今まで転移魔法は術者に触れているとその人も一緒に転移できるので便利だなと思っていたが、欠点かもと認識を改める。


「・・・・」


開け放たれた玄関の先に転移無効化のアイテムが無造作に転がっているのが見えた。・・あれ国宝級のレアものじゃなかったっけ。


「・・・・っ」


それになんとも言い表し難い気持ちになったが、王子様の必死な表情に何も言えなくなる。そもそも転移魔法発動中に術者の体から同行者の手を離すのは危険だ。体のどの部位がどこに落ちるか分からない。そんなグロテスクな犯罪は犯したくないので一人で魔王城に行くことを早々に諦める。

ため息を吐いて、魔王の遺言に思いを馳せ思考を切り替えた。








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