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【書籍化】<本編完結>これで満足しましたか?〜騙された聖女は好きな人も仲間も全部捨てたのに王子が追ってくる〜  作者: せろり
本編

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「”浄化”」


体の中の魔力を練り上げて手の平を魔物に向け、端的な言葉を詠唱する。

すると目の前のオーガが中から発光し、やがて砂となった。


「さすが光属性」

「一瞬ね・・・」


旅に出てから4ヶ月が経つ。

人間とは慣れる生き物というもので、何度も魔物を狩るうちにこの行為への抵抗はすっかり無くなっていた。


「”治癒”」

「おお、ありがとう」


目の前で町一つが崩壊したあの日、私は本当の覚悟を決めた。

今までは他人に言われて流されるままに最適な回答を選んでいたけれど。


私はチートではない。

そしてこの世界の人たちは理不尽な環境の中で一生懸命生きていた。


それをはっきりと自覚し、今まで以上に魔法の練習と実践に励んだ。

直ぐに成長したとは言えないけれど学習と経験はちゃんと身を結び、今では中級の浄化魔法と上級の治癒魔法が使えるようになっていた。



「今日は近くに町もないし暗くなってきたからこの辺で休むか」


今では一日中歩き続けても大丈夫になった。野宿にも慣れた。

今では食べられる物と食べられない物も見分けられる。

召喚当時、何も知らなかった私はもういなかった。


「ヒカリ」

「・・魔法の練習に行く」


夕食を食べ終えそれぞれが寝る準備に入っている中、こっそりその中から抜け出すと後ろから王子様が付いてきた。


「今日も沢山戦ったんです。貴方も休憩した方がいいんじゃないですか」

「うーん。そうだけどヒカリを森の中で一人にはさせられないよ」

「それなりにもう自衛できるので大丈夫です」


上級の治癒魔法は死んでなければどんな怪我を負っても治る。

最悪魔物に襲われて倒せなくても、治癒魔法があるからあまり危機感は持っていなかった。

実際仲間たちも上級治癒魔法を会得してから、旅の最初のように後衛で見守られながら弱い魔物を倒すという過保護対応は解消されている。

それでも私は魔法の特訓を続けていた。魔物を倒す浄化魔法はまだ中級しか使えない。だから危険を承知でも特訓したい気持ちの方が強い。・・今は弱さは甘えだと知っているから、余計にそう感じた。


「それでも何かあった時一人より二人の方が対処できるから。だめ?」

「・・・・」


後から知ったことだがあの日、王子様とキースは初級の治癒魔法を使えるので多くの人たちの治療に奔走していた。

初級の治癒魔法は体の表面にできた切り傷や擦り傷を治す魔法。重傷者でもそれを使えば止血代わりになる。

みんなと合流したアメリアとジェイクはまた魔物が現れないか警戒しながら町の復旧を手伝っていたらしい。

私は魔力枯渇であの後倒れ、2日程寝込んでしまったのだ。

目が覚めると王子様が手を握っていて、椅子に座りながら眠っていた。

しばらくぼんやりとしていたが、覚醒すると段々とあの町で起きた出来事が蘇ってきて。

無意識に涙を零しながら考えに耽っていると、王子様が身じろぎし目を覚ました。


「ヒカリ・・」

「・・・・」


不思議と気分は凪いでいる。ただただ涙だけが流れているが。

そんな私の様子に王子様は何かを言いかけ、でもそれを呑み込んだ。


「・・・・体調はどう? 魔力枯渇で数日目を覚さなかったから心配したよ」

「・・そうなんですね。魔力は元通りになったみたいです」


自分の体に巡る魔力を探るとそれが問題無く体を巡っていることを感じられた。

この魔力は私しか持っていない貴重なモノ。

でもそれを必要な時に使えなければ意味がない。

だから。


「エル。私この光属性の魔法を使いこなせるようになりたい」

「・・うん」

「だから今日からもっと特訓する」

「・・うん」

「いままでずっと守って貰いながら戦ってたけど、これからはもっと私も前線に出るね」

「・・・・ああ。分かった」


私が戦う時、最も過保護になるのは王子様だ。

キースもアメリアももっと実戦を積んだ方がいいって前から言ってたけど、全部王子様が反対していた。

私も怖かったし逆に足を引っ張りそうだと思ったから、今まで何も言わずに王子様の意見に従っていた。


けれどもう覚悟を決めた。私は魔物を倒し、魔王を・・殺す。


それはこの世界の人たちに必要なことだし、私にとっても元の世界に戻るという願いへの近道となるはずだ。

正直何故私がという気持ちは未だ心の奥底にある。けれどそれはこの世界の人たちにとっても同じなのだろう。

あんな悲しみは二度と味わいたくは無い。それに私にはどうしても元の世界に戻らなくてはならない理由がある。


だからこんな生き物を殺すという痛みや特訓などなんてことない。

どうせ逃げられないのだからもう覚悟を決めるしかないのだ。

殺さなければ殺される。それがきっとこの世界の人と魔物のルール。

私もそれに巻き込まれる自覚をしよう。


「これからもよろしくお願いします」


葛藤を心に抱え、でも真っ直ぐと決意を目に王子様を見つめる。

そんな私に王子様は唇を噛むが次の瞬間、歪な笑顔を浮かべて手を差し出した。


「ああ。聖女殿の協力に感謝するよ。ヒカリ」


ああ、優しい王子様にこんな顔をさせて申し訳ないな。

でもあの町の現状を見てしまったからには今まで通り、守られたままではいられない。

私が強くなること。それはこの世界の人たち全員の望みだし私が呼ばれた理由だ。

そしてそれを叶えなければ私は帰れない。ならいつまでもうじうじ悩んでも、結局やることは一緒だ。

もう、私は魔王を倒すことだけを考えよう。

では早速有言実行と言わんばかりに私は部屋を出て、まずは腹ごしらえだと王子様に背を向け食堂に向かう。


部屋に取り残された王子様の両手が、血を流すほど強く握りしめられていたことなんて知らないで。







ーーー



「100年後ねぇ・・」


私が城から消えた日、あの国の王様が私を探しているという話は聞いたことがない。

多分悲願だった魔王討伐という目的を遂げたが、元の世界への帰還という報酬が払えない為、聖女が消えたのをこれ幸いと放置しているのだろう。

例えるなら部下の相談には乗るけど、結局辞めた社員をその後誰も追わないのと同じだ。

引き止めても補填なんて出来ないし、労務局に訴えられても困るしという感じだろう。

むしろ必要のなくなった聖女が消えて内心ほっとしているのかもしれない。


そんな言われなければラッキーと言わんばかりな施政者たちを見ていれば、この世界の今後の在り方が予想できる。

魔王を倒しても魔物は弱くなるが完全に絶滅するわけではない。

その対処は永遠に続けないといけないし、ここ数年の魔王による被害の対応など色々やることはあるのだ。

100年後の対策はしないで、忙しいと言い訳をしてひたすら目の前にある問題しか片付け無い。


聖女召喚には国家予算に匹敵するくらいの大量の魔力が必要になる。

魔力はこの世界にとってお金と同等かそれ以上に価値のあるものだ。

そのため聖女召喚は一つの国が実施し続けるのは負担が多いので、魔王が現れる度に持ち回りで担当するらしい。

ちなみに魔王と魔物という脅威が常にあるせいで、この世界では国家間の対立は無いそうだ。

しかしどこも魔力不足で逼迫している状況のため、無償で協力し合う関係でもない。


もし次に魔王が現れた時、違う国が聖女を用意し討伐メンバーを決めて魔王を倒す旅に出ることになる。

だからあの国は次から魔王討伐に頭を悩ます必要はないため、今後は自分の国だけを心配していればいいのだ。


「・・・・はは」


これじゃ世界が変わる訳がない。

きっと100年後にはまた魔王は復活し、新しい聖女が召喚されるだろう。


「まあ、私に出来ることは何もない・・」


そうして、いつまでも悲劇が繰り返されるのだ。

ああ、くだらない。





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