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それは突然起こった。
町のはずれの少し開けた場所で王子様と魔法の訓練をしていると、ドオンと地面が揺れるような衝撃が走った。
「!」
「わ、」
ゆらりと傾く私を素早く王子様が支え、けれど警戒したようにあたりを見渡す。
真剣な表情に私は邪魔しないよう静かに耳を澄ました。
「きゃあああ!!」
「魔物が出たぞー!!」
「魔法使いと剣士に連絡を!」
先程までのほんわかした空気が一変、騒然となる。
「ヒカリは宿に戻ってアメリアと合流して。私は行ってくる」
「でも、」
「送れなくてごめんね」
そうじゃなくて一緒に、と言う前に王子様は走り去ってしまった。
少し迷ったが、初級魔法しか使えない私が行ってもあまり戦力にならないのは今までの経験から知っている。
それにこの町には強い戦士がいっぱいいると言ってたし問題無いだろう。
少し後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、足手纏いになるよりはと思い王子様の指示に従って私は宿へ向かって走った。
「ジェイクとキースはエルの元に向かったわ。ヒカリは私と安全な場所で待機よ」
部屋に戻ると寝ていたはずのアメリアは武装しており、私を待っていた。
既に纏めてあった荷物を持って一緒に避難所に向かうよう指示される。
ちなみにジェイクとは一緒に旅をしている騎士の名前である。
みんな王子様の思考を読んで既に行動していたことに感嘆した。そして同時に申し訳なくも思う。
きっとアメリアが残っているのは私のためだ。王子様筆頭にみんなは私を守りながら戦うことを常に念頭に置いている。
人が住んでいる所での戦闘は他人を守りながらの戦闘になり難易度が上がる為、町や村などでの戦いはこうやって後方に誰か護衛に付けて下がらせるのだ。
私は経験を積むため、普段みんなが守れる位置にいて且つ低級魔物が相手の時のみ戦闘に参加させてもらっているが、聖女は今の所この世界にただ一人。魔王を倒せる最上位魔法の取得をしなければならないが、唯一でもあるため死んではいけない。
世界にたった一人の光魔法の使い手とは、そうやって慎重に守られながらレベルアップをしなければならないのだ。
「・・ごめんなさい」
「いいのよ。最初はみんな初心者なんだから」
自分だけ特別扱いをされている罪悪感で下を向くとアメリアが肩を叩く。
「私達はあなたに無理を言っているのだから、守るのは当然」
「アメリア・・」
さらりと言われた言葉にうるっとした。
もっと訓練の時間を増やして早くみんなの役に立たないと。
「ここね」
「人数が多いですね」
アメリアと一緒に避難場所に着くと、町の非戦闘職のほとんどが集まっているのではないかと思う程の規模の人たちが集まっていた。
その人たちを囲んでいる少数の護衛にアメリアが声をかける。
「ここいいかしら」
「ああ。子供を中心にして中に入ってくれ」
町の人たちは魔物の襲撃に慣れているのか、パニックにはなっておらずじっと静かに固まっていた。
「あの、私初級の治癒魔法なら使えるので怪我人の手当て手伝います」
「アタシは治癒魔法使えないけど、包帯くらいなら巻けるわ。ただしこの子の護衛だから近くは離れないけど」
「本当か! 助かる」
戦いの場には出ないものの、ただ守られるだけはむず痒いので出来ることを護衛の人に申し出た。
「ありがとう。お嬢さん方」
にかっとお礼を言って怪我人がいるエリアに案内される。
場所はカーテンのようなもので仕切られているが、守りやすいよう避難所と同じ区画にあった。
見渡してみると比較的軽症の人が多く、私が治せる範囲の怪我だったので内心ほっとした。
「お嬢さんの魔法は綺麗だな」
「・・ありがとうございます」
光属性の魔法は他の属性と違い、発動すると白いきらきらとしたエフェクトが光る。
この世界に一人しかいないので、知る人ぞ知る現象だ。しかし聖女と言って期待させても私は初級の治癒魔法しか使えないので笑って誤魔化しておいた。
「しかし今回の魔物は大分手強そうだな」
「そうなの?」
手当てを始めてから休憩を一切していないのだが、次々と怪我人が運ばれてきて終わらない。
いつもと様子が違うと言いながら周りを警戒する護衛の人に、アメリアが反応した。
「短時間で運ばれていくる怪我人の数が多すぎる。それにこの人数が一度に避難するのは初めてだ」
避難所にいる護衛の人は前線で戦っている人たちがもし魔物を打ち漏らした場合、怪我人や避難した町人を守る役割を持っているそうだ。
そのため今どんな戦況か分からないが警戒しておいてくれと神経を尖らせる。
その不穏な内容に私とアメリアは顔を見合わせ、仲間が戦っているであろう方向に顔を向ける。
みんなは無事だろうか。・・王子様は怪我をしてないだろうか。
もどかしい思いを抱えながら祈るように呟いた。
「どうか無事で」
ーーー
「魔王は約100年の周期で復活します」
昔お城の教師に言われたことを思い出す。
この世界の神はよほど試練が好きなのか、このような悲劇を100年毎に繰り返すという。
魔王を倒す事は聖女しかできないが、倒しても100年後には別の魔王が現れる。
今回私が魔王を倒したが、きっと100年後にまた新しい魔王が誕生するだろう。
過去に聖女とこの世界の人が結婚して子供ができたことがあると歴史書に残っているが、だれも光属性の魔法は使えなかったらしい。
つまりまた100年後、誰かが新しく聖女として召喚されるのだ。
「・・・・」
思うところはある。だけど100年後なんて生きていないしどうしようもない。
聖女は光属性を持つ唯一の存在だが、チートではないのだ。
それに帰れなくなった今、可哀想だと思う気持ちはあるがどうしても何とかしなきゃという熱意は湧いてこない。
多分元の世界で言う軽いうつ状態に近いのだろうか。
100年後のこの世界の人たちも、新しく召喚されるであろう聖女も気の毒だと思うけれど私には何も出来ない。
それより100年毎に魔王が復活すると分かっているのに、こんな連鎖を何百年も繰り返しているこの世界の為政者たちの無能さの方に問題があると思う。
ごろりと寝返りをうって、ため息を吐く。
ーーきっと。100年後も何も変わらず、悲劇は繰り返されるのだろう。
いわゆる姫プでレベル上げ。
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