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田舎暮らし

ロン毛

作者: 山谷麻也


 §1 髪が背中に

 去年の暮れから、髪を伸ばし始めた。

 髪は肩を越え、やがて背中に達した。鏡を見ると、顔がやけに小さく見える。

 家にいる時は、後ろで束ねてみた。白髪であることも手伝って、なんだか老芸術家みたいだ。

 人前で話す機会もあった。少し勇気がいったが、ロン毛のまま出かけた。


 §2 姿を消す美容院

 奇をてらっていたわけではない。行きつけの美容院が、昨年暮れに店を閉めたのだった。

「今の時代、家賃を払ってまで、店を続けられない」

 というのが理由の一つだった。

 埼玉からUターンし、完全に田舎に腰を落ち着けてから三年あまりになる。この間でも、馴染みの美容院が二軒消えた。


 §3 ある試み

「困ったことになった」

 髪は次第に伸びてくる。しかし、なかなか新しい店を探す気にならなかった。

 と言うのも

「生活に必要な店がなくなる、というのはどういうことか。どんな支障が生じるのか、この際、実体験してみよう」

 という考えが支配的になってきたからだった。


 §4 代わりはいない

 ある日、鍼灸専門学校の後輩から電話があった。やはりコロナ禍で、周囲の治療院がつぶれている、という。

 それは都会に限ったことではない。田舎も例外ではないのである。


 美容院の代役をどこかが果たせるか、というと無理だろう。理容店も同じ。さらに言うなら、飲食店などもそう。いずれもプロにはかなわない。


 我が施術業の話にもどると、病院が代行できるのは、ごく一部の業務に限られるだろう。


 §5 勝者なき社会

 二一世紀に入り、社会が目まぐるしく変わっていた。コロナはその変化に、揺さぶりをかけた。

 世界中が岐路に立っているどころか、もうコーナーを回ってしまったのかもしれない。人類は情報化、そして感染症に対して、あまりにも無力だったのではないか。

 特に情報は社会を豊かにするどころか、新たな支配者になろうとしている。この情報禍とコロナ禍の時代において、勝者になった、と誰かが思っているとすれば、勘違いもいいところだ。


 §6 カットを決断させたもの

 そんなことを考えながら、髪を伸びるにまかせていた。しかし、七か月が過ぎようという時、突然、切る気になった。最近、新規開店した美容院がある、と聞いたからだ。

 若いスタッフが頑張っていた。ファンの一人になってしまった。



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