虎
乕よ、虎よ。
夜の木叢に燃え明がる。
汝を造り賜いしは
不滅の腕か、不死の眼か。
実に脅威ろしき均整美。
汝の瞳の燈火が
燃えて照らすは地の底か
果てなく高い天空か。
望んで止まぬ翼さえ
燃やし尽くてしまうのか。
誰ぞ、猟り獲るその焔。
如何に膂力があろうとも
如何に武技を得ようとも
汝の心の鎹を
捻じ切る者ぞ、あるものか。
汝の脈は打ち始め
実におそろしき腕と肢。
如何なる鎚があったのか
如何なる鎖があったのか。
汝の脳髄が生まれしは
如何なる鉱炉か、鉄床か。
死なる恐怖が掴み取る
実におそろしき威圧感。
星夜は槍を投げ落とし
涙で濡らす天つ国。
己が造りし物を見て
主は笑っておられるか?
汝を造り賜いしは
子羊を創りし主なのか?
虎よ、乕よ。
闇夜の森に明く燃ゆ。
汝を造り遊びしは、
不滅の腕か、不死の眼か。
実に畏怖ろしき均整美。
原著:「Songs of Experience」(1794) 所収「The Tyger」
原著者:William Blake (1757-1827)
(William Blakeの著作権保護期間が満了していることをここに書き添えておきます。)
翻訳者:着地した鶏
底本:「Songs of Innocence and of Experience」(Project Gutenberg) 所収「The Tyger」
初訳公開:2022年6月25日
【訳註もといメモ】
1. 「乕」という文字は虎のシンメトリックな縞模様を彷彿とさせるので良きですね。
2. 詩は詩人が訳すべきである(戒め)。誤訳誤謬誤爆の塊かもしれない。
3. 「thy fearful symmetry」を「人知を超えたシンメトリー」と訳出した某SFアニメの脚本家(円城塔?)は怪物だと思った。