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鬼道、つれづれ日記  作者: 椛こま
5/20

しとしと 5

 

「お前、北の殿の子というなら、東家の当主様のお子ということだよな?」

 三人になるとたまらず忠平は武千代に詰め寄った。


「はい、そうです」

「そうか」


 忠平の瞳はきらきらと輝いている、純粋な興味が抑えられないという様だ。


「やめろ」


 良房が後ろから思い切り忠平の頭を叩く。


「すまないね、武千代殿。こいつは思ったことをなんでも口にも顔にも出すんだよ。阿呆なんだな」


 その言葉に忠平は思い切り不満を漏らす。



「黙って布団を引け」


 黎人(あきと)は母屋に寝床を作ってもらえたが、三人は農作業小屋に寝ることになった。喜平は都人をそんな小屋に泊めるなどと、とても恐縮していたが三人は快くその申し出を受けた。

 都人といっても陰陽師は貴族とは違う。都では同席を嫌がる貴族もいる。

 除霊の時など、何日も野宿することも当たり前で、屋根、壁がある場所に寝かせてもらえるだけでありがたい事だった。


「いやー、驚いたよ。こんな辺鄙な所で生きた伝説に会えるなんてさ」


 大の字で布団に寝ころぶと忠平は大きく伸びをした。その足を容赦なく良房が蹴った。


「本当にすまないね」


 申し訳なさそうに細い釣り目をさらに細めた。


「何だよ、いいだろう聞いたって。もう二度と会えないかもしれないんだぜ。お前この仕事してるのに全然わかってないな。人はやりたい事を心に秘めちゃダメなんだ」


 がつんとまた蹴られる。


「兄弟子にお前とはなんだ。それにお前の解釈は間違っている。人は感情を秘めていいんだ、いくらでも。そして話したくなったら話してもいいんだ。お前のそれとは全然違う」


「あー」と忠平は頭を抱える。


「お二人はとても仲が良いのですね」


 武千代はそんな二人の様子を楽し気に眺めていた。


「私がお答え出来ることならお答えしますよ。ただ良房殿が言うように秘めておきたいことはお話できませんが」


 そう言うと、ふふっと笑みをもらした。

 その零れるような柔らかい顔がとても可愛い。二人は息を飲んだ。


「東家の連中は大変だな。こんな生き物を家に置いとくなんて」

「どう大変なんですか?」


 武千代には忠平の言葉の真意が分からない。


「いや、家にはお前のような繊細な生き物がいないからさ。何もかもが心配になってみんながお前の後について歩くよ」

「お前とはなんだ」


 ゴンという鈍い音がして、忠平が頭を抱えた。どうやら、今度は殴られたようだ。


「では武千代殿のお言葉に甘えて、一つ聞いてもいいかな?」


「ずるい」忠平が膨れるが良房は無視した。


「武千代殿は霊剣を持てぬのですか?」

「はい、霊力が弱すぎて剣には選んでいただけませんでした」

「でも、呪術の腕前は悪くないじゃないか」


 呪符を使うにしてももちろん霊力が必要だ。


「あれは特別な札なんですよ。お父様の霊力が漉き込まれているのです。試しますか?」


 武千代は懐から何も書き込まれていない札を出して二人に渡した。

 二人は捧げ持つように札を眺める。


「確かに霊気を感じる」


 二人の手が震える。

 西家でも簡単な呪符を使う、早速忠平は懐から筆を取り出すとさらさらと呪文を書き込んだ。

 呪符の初歩の簡易結界の呪文だ。

 印を結び飛ばそうとするが、札は揺れるだけで言う事を聞かなかった。


「なんだこれ?」


 忠平はもう一度印を結び、更に気を込める。忠平の気が辺りに広がった。でも、札は飛ばなかった。


「やはり、操れませんか」


 武千代が、大きく頷く。


「お父様の札は扱いが難しいらしいのです。でも、使えれば普通の札とは威力が違うのでそのままお持ち下さい」

「くれるのですか?」

「はい。もちろん。家の者でも上手く使える者は少ないですが、いざと言う時には勝手に動いてくれたりするそうです。皆、お守り代わりに持ってます」


 首を傾げてお道化るその仕草に忠平は見惚れてしまった。


「では、有難く」


 良房は大事そうに懐に閉まった。


「それで、明日はどこへ行かれるのですか?」

「この辺りで亡くなった男の事を調べて、身元が分れば戸籍を確認しに行くかと」

「そうですか。では、休みましょうか」


 良房が話しを終えて、寝床に入ると忠平が口を開いた。


「俺にも聞きたい事があるんだ」

「黙れ」


 良房に頭まで布団を掛けられ、質問はもごもごとしか聞こえなかった。


「さあ、武千代殿寝てくだされ。あの阿呆のことは無視していいので」


 武千代は笑いながら頷き、布団を引き上げた。

 黎人が制御していたが、あんなに邪気の強い相手と敵対したのは初めてで、実は疲れきっていた。

 だから、目を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。

 遠くで聴こえる忠平の声が子守唄のように武千代を深い眠りに誘った。



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