しとしと 4
月もない晩だった。
四人は幽霊が現れたという場所に辿り着いた。
行灯を消すと辺りは闇に包まれる。
さっきまで涼しかった風が生温く纏わりついてくる。
四人は立っているだけでそれを感じとることが出来た。
「昨日はここまで強い邪気を感じなかった」
良房の声が震える。
散っていた霊気が一所に集まるように大きな塊になっていく。
「怨霊だ、忠平構えろ」
良房が叫び、腰の剣を抜く。忠平も続いて剣を抜いた。
「白一文字に粉雪丸とは随分立派な剣だ」
二人は自分たちの剣の名前を言い当てられて驚くが、目の前の霊気と対峙することに必死で後ろを振り返れない。
「でも、斬るな。その人は東家が祓う。武千代、札を」
「はいっ」
武千代が放った数枚の札が生き物のように霊気の塊を囲み込む。
良房は突然頭の隅に引っかかっていた違和感に気づいた。そう、この二人は東家の者なのに帯刀していなかった。東家で呪術を使って除霊をする者。
「忠平!」
霊気に負けない様に気を張っているため声が大きくなる。
「この方は東家の北の殿様だ」
それを聞いて忠平は霊そっちのけで振り返った。
黎人がパタンと扇を閉じる。
真っ暗な闇なのに白く浮かぶ美しい顔が細部まで確認できる。
「これが天命の子」
忠平が呟く。
「さあ、あなたの望みを聞かせて下さい」
シャンと黎人が鈴を鳴らした。
「天の海を漕ぎだす船 大きな渦にのまれし時
地に幾千万もの星降り注ぐ
青き海が生まれ 星を包み込む
天に神があり 地に神が宿る
たゆとう浪が優しく星を育てる
空に雲が生まれ 火が山を起こし 雨が山を育てた
命が生まれ 海と山はそれを育てた」
シャン、シャン、と鈴の音が響く。
呪符に押さえ込まれた霊が形作られて行く。
「これが南家の天命の子の神言」
南家の陰陽師が使う神言、だがその霊力とたぐいまれな美しい声から放たれた言葉は歌のようだと。
「たしかにこれは次元が違う・・・」
良房も忠平もその霊力に圧倒され剣を下ろした。そして黎人の唱える神言に聞き入った。
黒く固まった霊は人形になった。
「会・い・た・い」
男の形になったそれは言った。
「誰に?」
黎人が尋ねる。
「なぜ、出て行ったんだ。なぜだ」
男の答えは要領を得ない。
シャン、黎人がもう一度鈴を鳴らす。
「誰に会いたいんだい?」
男の黒くくぼんだ目が黎人の方を向いた。
「私は悪くない、私は悪くない、私は悪くない」
男は同じ言葉を繰り返すだけだ。
「武千代、呪縛の呪を唱えろ」
武千代が素早く印を結び呪を唱えた。男は固まると動かなくなった。
辺りは元の闇が戻り、静けさを取り戻している。
武千代が呪術を込めた袋を開き男を吸い込んだ。
良房と忠平はまだ剣を下げ、呆けた顔で黎人を見つめたまま固まっていた。
「西家の子たちよ」
黎人が声を掛ける。その声で二人はやっと我に返った。
「はっい!」
「私たちはこの男の因果を探ることにするが、君たちはどうする?」
二人は顔を見合わせた。
「御一緒させていただいていいですか?」
「ああ、分かった。じゃ、一緒に行こうか」
四人は連れだって喜平の屋敷に向かった。




