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鬼道、つれづれ日記  作者: 椛こま


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ぷつぷつ 4


夜明けと共に四人は目覚めた。

身支度を整え、部屋を片付け、外へ出ると小柄な身体を精一杯使って境内を掃いている小僧を見つけた。一生懸命な小僧に昨晩のお礼を述べ、何かあったら遠慮なく南家に相談して欲しい旨を告げ、寺を後にした。

早朝の都はまだ露店を出している店も少なく四人の馬は颯爽と大路を飛ばしていった。

そのため、都の北の端に位置する北家には随分早く到着したのだった。

四人の到着を知ってすぐに家人が出迎えた。馬を預けていると人の声が聞こえて来た。その声の方に忠平が向かおうと振り向くとそこに寅次郎の大きな背中があった。


「何ですか、寅さん。急に止まらないで下さいよ」


ぶつかった額を撫でながら、突っ立っている大男の前に回り込んだ。見上げた寅次郎の瞳は前方に釘付けになっている。


「どうしたんですか?寅さん何を見て」


忠平もその視線の先を見る。

近づいてくる三人の男たちが見えた。


「あ、武千代だ」


忠平の目には先頭で小走りに近づいてくる青年が映った。


「黎人、あきとさまぁぁぁぁ」


突然寅次郎が叫んだ。その声に忠平は肩が飛び跳ねた。

前方で声に呼ばれた主が大きく手を振る。


「寅」


満面の笑顔のまま駆け出して来る。

寅次郎も駆け出した。

走り寄った黎人はそのまま飛び上がり寅次郎に抱きついた。


「変わらないな、寅」


黎人を抱きかかえた寅次郎から言葉は返ってこない。その代わりに、「うぅぅぅ」と押し殺した低い声が漏れた。

寅次郎が泣いている、武千代に手を振ろうとしていた忠平は固まったその手を下ろした。



忠平は大厄災の後、焼け野原になった旧都で見つけられた。

焼け落ちた家屋の水がめに産れたばかりの赤子が詰められているのを寅次郎が発見した。

水がめは水の張られた風呂桶の中に二人の人間に両側から包み込むように押さえ込まれていた。

中の子を生かすために命を掛けたその壮絶な愛が忠平を生かした。

それでも、中の忠平は瀕死の状態だった。

寅次郎と西家の者たちの必死の看病で一命を取り留めたのだ。一命を取り留めたが忠平はとても身体が弱かった。人の数倍病にかかったし、病にかかるたびに命の危険に至った。その度必死に看病したのも寅次郎だったし、体の弱い忠平に根気よく陰陽師の修行をつけたのも寅次郎だった。

つまり、忠平にとって寅次郎は命の恩人であり、師であり、父であった。

何より忠平にとって寅次郎は無敵の男なのだ。

その寅次郎が泣いている。

始めてその涙を見た。

忠平は呆然としたままその光景を見ていた。


「外へ出られるようになったと聞きどれだけうれしかったか」


くぐもった野太い声で寅次郎は目の前の人物に言った。その後の言葉は続かない。

黎人は寅次郎の浅黒い顔にそっと手を添えた。


「寅が大人になっている」


じっと顔を見つめる。


「背も更に大きくなって。あの頃は私と変わらないくらいだっただろう?」

「はい。黎人様が寝ている間にまた大きくなりました」

「頼もしい、立派な男になって」


そう言って二人は見つめ合った。が、その時間はあっけなく終わった。

黎人が弦蔵に引き剝がされたのだ。


「はい、寅次郎は立派に大きくなったよ。もういい大人だ。良かった良かった」


引き剥がした本人がそう場をまとめた。


「弦蔵・・・」


近くで黙って二人の再会を見守っていた桂が大きなため息をついた。


「弦蔵・・・」


黎人も恨めしい瞳で訴える。


「いや、十分だっただろう。たっぷりとした再会の時間だったよな。いや、いくら十年ぶりの再会にしてもいつまでも抱きついて話さなくてもいいわけだ」


弦蔵は縦抱きに抱えていた黎人を寅次郎から三尺離して下ろした。


「はい、思いっきり語り合ってくれ」


どうぞ、と両手を広げた。


「弦蔵、嫉妬がすぎる。お前のそれは本当に病だからな」


呆れたはてた声で桂はそう言うと、「すまんな」と寅次郎に詫びた。その言葉に応えるように、寅次郎はガハハハハハと笑い出した。


「変わっておりませんね。何にも変わってない。でも、私もあの頃は分からなった情愛を知ってますから、そうか弦蔵様が私に殊更邪険だったのは嫉妬されてたからなんですね」


そう言うとまた、ガハハハハと大口を開けて笑った。

桂は呆れたように寅次郎を見つめた。


「何を今更」

「お前はませた子供だったが、俺はあの頃ただただ単純で純朴な穢れ無き子供だったのだ。そんなことが分かるはずなかろう」

「いや、年を取って気づくとかあるだろう?」

「桂こそ何を言ってるんだ。仕事で弦蔵様にあった時は別に邪険になんて扱われたことがなかったのだ、気づかないに決まっている」


寅次郎は、ガハハハハとまた笑い、「まさか、嫉妬されていたとは」と嬉しそうに呟いた。

もう先ほどまでの湿っぽい雰囲気もどこかへ吹っ飛び、いつもの寅次郎がそこに居た。

忠平はその変わらない笑顔に知らずに安堵のため息を漏らした。


「忠平さん」


呼ばれてびっくと肩が跳ねる。

振り向くとそこには笑顔の武千代がいた。夏の初めに会った時よりその笑顔は大人びて見える。


「とう様が、忠平さんにも素っ気ない態度を取ると思うんですけど、そんなわけだと許して下さいね」

「え、俺にも?」

「そう、義兄(あに)関係する全てのものに嫉妬するのです。恐ろしい男なんです」


弾心が寄ってきて付け加える。

弾心の言葉に頷く訳にもいかず、忠平は引きつった顔で、目の前で繰り広げられている光景を眺めた。



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