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鬼道、つれづれ日記  作者: 椛こま


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ぷつぷつ 3

 

「厄介ですか?」


 歩き出すと忠平が聞いた。


「厄介だな」


 まったく普通の口調で桂は答えた。


「東家まで帰るのは遠かろう。どうする?」


 寅次郎が尋ねる。

 桂は空を見上げて少し考えた。


「そうだな、その辺の寺にでも泊まるか」


 都には名のある寺院から名もない私寺まで大小さまざまな寺院がある。そのどこでも陰陽師が訪ねてきたら寝床ぐらいは用意してくれるだろう。


「確かこの辺りに、藤原家の私寺があったろう。寅次郎、頼んでくれ」

「おう」威勢よく返事をした寅次郎だが、立ち止まって周りを見渡している。極度の方向音痴なのだ。


「寅さん、私が案内しますよ」


 忠平が引きつった顔で先頭を歩きだした。


「西家の師弟は出来たものが多いな」


 桂が寅次郎の背中を叩いて追い抜いていく。

 藤原家の私寺にはすぐに着いた。

 西家の者だと言ったら、すぐに長屋に通してくれた。住職と小僧の二人きりの寺らしく、幼さが残った小僧が握り飯を運んできてくれる。


「ありがとう、済まないね」


 握り飯を受け取ると、弾心は懐から小さな包みを取り出し小僧の手に乗せた。綺麗な千代紙で包まれた餡菓子だった。

 小僧は目をきらきらと輝かせた。


「ありがとうございます」


 ぺこんと頭を下げると駆け出して行った。


「跳ねてる、跳ねてる。可愛いな」


 忠平が隣にやってきて一緒に小僧を見送った。


「いつも、菓子を持ち歩ているのか?」

「甘いものが大好きで。除霊に行く時はこれがないと何だか不安になってしまうほどなんです。子供っぽいですよね」


 顔を赤らめて頭を掻く。

 以前に除霊で会った時は、弦蔵と一緒だった。東家の次期当主として、兄について学ぶその姿は、容姿と同じく凛として人を寄せ付けない雰囲気だった。でも、今日の弾心は自分と変わらない普通の少年だ。


「武千代に似てるな」


 思わず口から零れる。


「そうですか?」


 隣の少年は笑顔を見せた。


「ああ、なんとなく」


 ふふ、弾心はまた笑った。


「嬉しいものですね。他家の方にそう言われるのは。武千代はこの世界には入らず、行ってしまうと思っていたんです。本人も除霊に付いて行きたいとずっと言えずにいて。でも、この前の除霊でその思いが強くなったみたいで、兄にはっきりと告げたんですよね。出来る限りでいいから除霊に付いて行きたいと」

「弦蔵様はそれを許したのか?」

「はい、出来る限り連れて行くことを約束してくれました。いつまで出来るかは分かりませんが、これからは一緒に除霊が出来る。忠平さんのように、陰陽師の武千代のことを知ってくれる人が増えると思うと嬉しいです」

「そうなのか、それは良かった」


 忠平も一緒に嬉しくなって手を取って喜んだ。


「おい、飯を食うぞ」


 寅次郎の声に急かされ、じゃれるのを止めて二人は円座に着いた。


「では、いただこうか」


 大きな身体を小さくして寅次郎が姿勢を正す。忠平も弾心も座り直し握り飯に向き合った。

 桂だけは胡坐のまま、目の前の握り飯を一つ取ると口に入れた。


「お、上手い」


 それを合図に三人も握り飯に食らいついた。


「おお、塩が効いているじゃないか」


 寅次郎は嬉しそうに頬張ると、もう次のものを掴んでいた。寅次郎の食事量を知っている忠平も慌てて次の一つを手に取り、それを弾心に渡すと自分のものも確保した。

 桂は一つだけで満足したようで茶を啜り始めた。桂が茶を飲んでる間に寅次郎が四つ握り飯を平らげた。そして満足したように茶を飲んだ。


「で、桂、どうする?」


 もう、すべて丸投げすると決めたようだ。


「まあ、媒介になっているものを見つけないとな。あれだけの呪いなら相当な力が働いているはずだから、屋敷を探せば怨念を感じることができるとは思うけどな」

「一般的には、人形や刃物ですよね?」


 弾心が話に入る。


「まあ、そうだな。」

「呪術書というのは普通全て禁書ですか?」


 普段呪詛系の依頼を西家では受けないので忠平は知らない事が多い。


「まさか、山のように民間の呪術書が出回っているよ。貸本屋に行けばその棚があるくらいだ。人を恨んでいる奴はいっぱいいるし、誰かの足を引っ張りたい奴もわんさかいるからな。人気本だぞ」


「うへぇ、貸本屋になんていかないからな」


 また忠平は変な声を出す。


「でも、実際に本物はない、ですよね。出回っている書が全て本物なら大変な事です」


 弾心が付け加える。


「いや、本物がないとは言い切れない。それを確かめた者がいないだけかもしれん。人を呪いたいと思っても呪術書に書かれていることを正確に実行するのは困難だからな」


 桂が言う。


「蛙を100匹、百足100匹、乙女の血、毒蛇から取った毒などなど、それらを必死に集めたとして、精練にまた訳の分からない条件が加えられる。そして、そのすべてをやってもその本が偽物だったらすべてが徒労に終わるのだ。真剣に試したいとは思はないだろう。でも、中には本物があるかもしれんという事だ」

「本物と分っている呪術書もあるんですよね」

「それはあるよ、もちろん。そしてそれらは禁書だ」

「どんな呪詛か分かれば対策も早く講じられますよね」

「そうだな」

公満(ひろみつ)に聞いとくか?」

「まあな、北家の禁書庫に似たものでもあれば話が早いな」


 寅次郎が懐から式神を取り出す。陰陽師たちが緊急の連絡に使う共通の式神で北家を表す緑色だった。寅次郎が式神を挟む指に「はっ」と霊気を込めるとそれはすごい速さで飛び去って行った。

 桂も懐から式神を取り出し、それを飛ばした。


「誰に送った?」

「明日のお楽しみだ」


 桂は意味ありげににやりと笑い、小僧が運んできた布団をさっさと引くと寝てしまった。


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