しとしと 10
峠に戻った黎人は道から少し外れた草むらの中を探る様にゆっくり歩いた。
「何を探しているのですか?」
武千代も真似をしながら草むらに入っていったのだが、目的が分からないままではどうにもならない。
「墓のようなものだ」
黎人は呟いた。
「墓ですか?」
その答えに武千代は不思議そうに首を傾げる。
「市郎の怨念は何かに押さえられていた、ばら撒きたくてもばら撒けない、そうやって膨らんでいった。その漏れ出した邪気をかぎつけて女の霊が引き寄せられたんだと思う。だから、市郎の遺体を発見した人は市郎を哀れと思って埋めてやったのではないかと思ったんだ、そしてその墓を何かで封じた、のではないかと」
納得がいったので武千代も草を分けながら辺りを探索した。
半刻ほどうろうろと探して見たがそれらしきものは見つからなかった。武千代は疲れた腰に手を置き身体を反らした。起き上がるとスッキリしたせいか景色が違って見える。
「緑が美しいな」
思わず武千代は口にした。新緑のこの季節の緑は格別だと思う。武千代は目の前の葉にいる毛虫に見とれた。見たことのない種だった。触ると危険なものもいると知っていても武千代はつい触りたくなってしまう。
指を伸ばしちょっとつつく。
毛虫はちょっと身体を縮めた。
そのまま、毛虫の後に付いて行く。
「あれ?」
毛虫を追っていた武千代の目に小山が入り込んだ。
林の中は同じように草が生え、木が茂り、奥に行け行くほど木が増えていくが、平地ではあった。だが、その場所だけ土が盛り上がっている。
人の手が加えられたようだ。
人を埋める、その発想から地面を掘って埋葬したと考えていた。
「そうか、上に土をかぶせると言う事も」
武千代はその小山の周りを見て回った。
山の端の方に草がなく土がむき出しの場所がある。辺りを見渡すと小さくもなく大き過ぎない平たい石が転がっている。拾い上げて載せるとちょうど土の部分が隠れた。
「とと様、ありました」
武千代の声に姿が小さくなっていた黎人が手を上げて返事をしてすぐに近づいて来る。
二人でよくよく周りを見たが札のようなものは見つからなかった。
「ないですね」
残念そうに武千代が話しかけると、黎人は石を持ち上げ裏を見たが、それはただの石の裏に過ぎなかった。
だが石を戻そうとした土の中に僅かな紙の破片が見えた。
「兄様の霊気だ」
本当に小さな破片だったが、黎人はそう断言した。
もちろん人より霊気の少ない武千代には見えない。
でも、黎人が言うのだ、それは黎人の兄、南家当主、道師玄斗が書いたものだという事だ。
「おじ様が災い避けの護符を書くなんて珍しいことですね」
「そうだね、これを持っていた人はきっと兄様の恩人なのだと思うよ」
いつも泰然自若とした玄斗なのだが、少し抜けたところがある人で、しばしば災難にあってしまうのだ。そんな時でも慌てずにいるため窮地に陥る事が多々あるのだった。その度に誰かに助けてもらうのだが、いつも過分な礼をするのを忘れなかった。大抵は持っている銭を全て渡してしまうのだが、銭の持ち合わせがなかったのだろう、玄斗の災い避けの護符は銀貨でも足りない、貰った人にその価値が理解できたかはわからないが。
「これが市郎さんが封じられていた理由ですね」
武千代が納得していると馬の蹄の音が聞こえた。




