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鬼道、つれづれ日記  作者: 椛こま
1/20

しとしと 1



 昨夜から雨が降っていた。

 雨脚はあまり強くはなかったが、それは途切れることなく、しとしとと路地を濡らし続けていた。

 男は笠を深く被り急ぎ足を動かした。

 時々小走りになりながらも先を急いだが、日は暮れてしまった。自分の里まではそう遠くないはずだ、男の足はさらに速くなった。

 ポチャン

 水溜まりの水が跳ねた。

 足も着物もぐっしょりと濡れ重くなっている。

 ポチャン

 また、水が跳ねる。

 すると、男の足が急に止まった。男は目を見開いて足元を見つめている。

 黒々と広がる水溜まりが男を見返していた。

 男はゆっくりと足を持ち上げた。さっきまで軽かった足が嘘のように重い。上げた足から水が滴り落ちる。

 その水が赤く見えた気がして男の鼓動は跳ね上がった。

 何かの視線を感じて男は周りを見渡したが、そこには闇が広がるばかりだ。

 しとしと、しとしと、雨の音がやけに耳に着く。

 男は怖さを否定するように首を振ると走り出した。

 息が上がり、胸は激しく波打っている。だが、耳にはしとしとという雨の音しか聞こえない。


「わぁぁぁぁぁぁぁ」


 男は叫びながら耳を塞ぐとしゃがみ込んだ。

 すると、雨の音が消えた。

 男は恐る恐る顔を上げる。

 ポチャン

 目の前に女が立っていた。

 女からは真っ赤な血がしとしと、しとしとと滴り落ちていた。



「それで被害は?その男は何かされたのか?」

「転んで擦りむいた程度の怪我だけだそうです。でも、その後雨の日にはその血まみれの女の霊が出没するようになって、最近は雨が降ってなくても出るようになったそうで、村人がとても恐れていると依頼があったのです」

「そこまでしっかり姿を見せていて、何も被害が出てないなんて珍しいことだ。でも人形(ひとがた)をとれるのだから、それなりの霊力がある・・・。私と桂は御前に上がらねばならないし、今うちは人手不足だな」


 6月の終わりとはいえ気温が上がり、じとじととその暑さが身体に纏わりつく。

 どうしたものかと、真人弦蔵(まひとげんぞう)は軽く手を振り扇を開いて、パタパタと風を起こした。その視線に壁代(かべしろ)を避けて入って来た男が映る。


「私が行くよ」


 |真人(まひと)黎人あきとの爽やかな声に弦蔵は顔をしかめた。


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