epilogue
「なにが……。」
身体が重い。
……頭…いや、身体全体を強く打ったのか手も足も…首すら動かない。
「冷てえな。」
辛うじて目は見えるが、目に映るのは鉄骨だけ。
雨粒が顔全体にかかってひどく不快だ。
「おはよう。」
時間が止まったように、風も…雨の音すら聞こえなくなり鈴を転がしたような心地よい声が聞こえた。
「あぁ……やっぱり…お前が俺の死神か。」
先ほど見た女とは明らかに違う。
異様なほど美しく、そして黒い闇が俺の側に立っている。
「貴方が勝手に死ぬんだから、私は死神でもなんでもないわ。」
「……そうか…。」
「そうよ。」
あの頃と変わらない、クソ生意気で癪に触る喋り方だ。
「どうだ?…俺はまだお前にとって恩人か?」
「ええ、私の弟を無事に取り上げてくれた恩人よ。でも……」
「うぐっ……。」
腹部に鈍い痛み…どうやら足で踏まれているようだ。
「ハル君を殺そうとしたことは絶対赦さないわ。」
何度も何度も腹部に痛みが走る。
「ハ、ハハハ!ざまあみろ…お前を怒らせただけでもこれまで生きてきた甲斐がある。」
「……。」
どうせ、俺が何を言ったって過去に起きたことはもう立証できない。
真っ当な方法での復習なんてできっこない。
ならば腹いせに、この死神に対して唾を吐いたって良いはずだ。
「……なぁ…聞きそびれてたんだがお前…家内をどうするつもりなんだ…。」
「……。」
「お前が関わる限り…あいつに幸せなんてお「黙れ。」
死神の顔に感情は無いが、その声には明らかに怒りが垣間見える。
「お前が…お前らが私とハル君のことに口出しするな。」
「……何があったか知らない…が…まあ、せいぜい足掻いて…」
最初は末端、手や足だった。
次第に感覚がなくなってゆく。
「もっと…ガキらしく…しろ…。」
息をすることすら億劫で、瞼が重たい。
「誰に何を言われなくたって……私が………幸せに……
最後に聞こえたのはそんな…愛憎に塗れた声だった。
次回本編更新は26日からです。
次回から2部1章「魔女」です。




