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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
1部 6章 揺り籠
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揺り籠⑦


町を二つに分断している大きな河川。

台風の影響で水位が増し、濁流の轟音が響く。


岸堤防のおかげで俺の知る限り洪水被害が出たことは今までないが、毎年台風の時期になると危険水位まで増水することはあった。


その川からさほど離れていない場所に、マンションの分譲予定地がある。


ブルーシートと足場で囲まれた建設途中のマンション群からは時折鉄骨かなにかがぶつかるような、カーンと高い音が不気味に響いていた。


「ここ…だよな。」

「そうだね。」


前にも病院の前でこんな会話をしたな、なんてことを考えながら建設途中のマンションを見上げる。


(ここに…玉波先輩が。)


「はる君、いい?相手は凶器を持ってる可能性が高い。玉波先輩がどんな状態でも…冷静でいなくちゃいけないよ。」

「あぁ…分かってる。」


雨と風に打たれて、多少は頭も冷えた。


自信はないが自分の命を捨てるような行動には出るつもりはない。


「よし、それじゃあ行こうか。」

「でもどうやって入るんだよ。前みたいに堂々と入るとかそういう問題じゃないだろ。」


マンション自体は防音ネットや足場で囲われているが、さらにその敷地を囲うようにして白く高い壁が俺たちの邪魔をしている。


「大丈夫でしょ。藤本…先生が入った所から入ればいいんだよ。多分どこか鍵がかかってないか壊れてる所があるはずだ。」

「なるほど。」


やはり、まことがいることで少しだが考える余裕がある。


もしひとりだったら怪我をしようが構わず無理矢理に侵入していたかもしれない。


2人で探したところ、トラックなんかが出入りするゲートはしっかり戸締りされており侵入なんてできそうもなかったが、一箇所関係者用の出入り口だと思われる扉の鍵が開いていた。


「あいつが鍵持ってるのか…?」

「さぁ…考えても仕方がないよ。」


扉を開けるまことの後に続いて敷地内に入る。


「私から離れないでね。」

「…お前もな。………なんだよ?」

「…いいや、カッコいいね。」

「…。」


こいつを相手にしていると緊張は和らぐかもしれないが調子が狂う。


「うーん、泥だらけになっちゃうなあ。」

「仕方ないだろ。」


工事現場の敷地内はまだアスファルトで地面を固めておらず雨に濡れた土がズボンへ跳ね返る。


外壁はまだ無く、柱も壁も床も天井もコンクリートが剥き出しの状態だったためマンション自体への侵入は簡単にできた。


「6階より上はまだ骨組みだけみたいだし、いつ遭遇してもおかしくないよ。」

「あ…あぁ。」


まだ内装…部屋や廊下という区切りがないため階ごとの範囲がかなり広く、吹き抜ける風や雨の音がうるさく集中力を削ぐ。


しかしコンクリートの柱や壁による死角が多く常に周りを見渡さなければならない。


次第に風の音が遠くに感じるほど緊張感が高まって、前を歩くまことの些細な動きにも心臓が跳ねる。


時間はかかるが1階、2階と順番に探し尽くして建造物として最低限の形まで造られている6階へと続くコンクリの階段を登っていると、まことが手で俺を制止した。


「…!」


まことに促されて3階の踊り場へ目を向けると、これから扉を設置するであろう場所。


廊下へ続く場所から僅かに光が漏れている。


「心の準備はいい?」

「心配ない。」


ここまできて、準備ができていないなんてことがあるはずがなかった。



「そう、じゃあ…行こう。」



22時ごろと23時ごろにもう1話ずつとepilogueを投稿します。

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