揺り籠④
「あれ…真実、母さんは?」
「車でお母さん迎えに行った。」
「やっぱり電車止まったのか。」
玉波先輩と別れた後、なんとか雨が降るまでに帰ってこられた俺は、頼まれていたアイスを妹に渡して一息つこうとしていたところ母がいないことに気がついた。
最初はトイレにでもこもってるのかと思っていたが30分ほど経っても姿が見えなかった真実に聞いてみると電車が運休してしまい、帰れなくなった父を迎えに行ったらしい。
「……なぁ。」
「んー?」
「思緒姉ちゃん、買い物に行ったにしては帰ってくるの遅くないか?」
「そう?まだ18時だよ。」
正確には18時30分頃だ。
たしかに真実の言う通りまだ18時頃だ。
思緒姉ちゃんは……留年してしまっているためついつい忘れがちだがもう大人だ。
たしかに台風の影響か風は強まって雨が今にも降りそうではあるが、子供ではないのだから危ない場所に行ったりすることもないだろう。
しかし…
どうしても頭によぎるのは野宮さんの事件のこと。
そして行方知れずの藤本のことだった。
「あ、心配しなくても大丈夫だって。」
真実が俺にスマホ画面に映った思緒姉ちゃんとのメッセージのやりとりを見せる。
それを見てひとまず安心したが、一体思緒姉ちゃんはどこまで買い物に行ってるんだ…。
「それにしてもテレビ台風情報しかしてないね。」
「まぁ…だいたいそんなもんだろ。」
「ん〜……あっ!これ結構近くない?」
テレビのチャンネルを次々と変えていた真実が、臨時ニュースを取り扱っていたチャンネルで手を止めた。
『火事が起きたのは玉波宗二さんの自宅で、周辺住民の証言によりますと火の手が上がる前に言い争うような声を聞いたとのことです。また、焼け跡からは男女複数名の遺体が見つかっており消防、警察は火元の特定とともに身元不明の遺体についてこの家に住む家族3人と連絡が取れないことから関連性を調べています。』
「…………………………は?」
「お、お兄ちゃん…玉波って……。」
「ちょ、ちょっと俺外に出てくる…。」
「え…でも!」
『えー…只今入ってきた情報によりますと、身元不明の遺体のうちのひとりが○○県在住の伊東茂さんで…』
「伊東……?」
居ても立っても居られず、部屋を飛び出しかけた俺はテレビから聞こえてきた情報に思わず足を止める。
「お、お兄ちゃん?」
「わ、悪い…ちょっと冷静じゃなかった。俺部屋に戻ってるよ。」
「うん……。」
2階の自室に戻ってすぐに玉波先輩へと電話をかけるが先輩は出ない。
呼び出し音自体は鳴るから、スマホが壊れたりなんかはしていないようだ。
「………………。」
そしてもうひとり、今連絡を取らなければならないと感じる人物の通話画面を開き通話ボタンを押した。
『どうしたの?』
通話の相手、まことは一度目の呼び出し音ですぐに出た…。
「…えっと、今どこにいるんだ?」
『変わった質問だね、今は…』
まことの声が途切れたと思った瞬間、インターホンの音が響く。
そして少し経ってから耳元で扉の開く音と真実の「はーい。」という声が聞こえた。
「おい…まさか。」
『やぁ、真実ちゃん。お兄さん…いる?』




