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ヒミツ(修正版)  作者: 爪楊枝
1部 1章 私とアナタ
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タイツ③


『えぇ〜、それではこのまま表彰授与式へ移ります。呼ばれた生徒は返事をしてください。美術部3年玉波………』


先週末の事件を受けての全校集会でもやはり犯人の情報や事件の進展が報告されるようなこともなく、1週間ほどは周囲を警察官が巡回してくれることや放課後の部活が短縮されることの通達のみで、すぐに恒例の表彰授与式や校長の話へと続いた。


まあニュースで報じられていること以上の情報が学校から知らされるなんて思ってはいないが、俺はどうしてもあの女のことが忘れられないでいた。


女は確かに俺と妹の名前を口にしたのだ。


そういえば野宮ののみやさんは警察から何か事情聴取とかを受けてはいないのだろうか?


事件当日、野宮さんが襲われた時に周りにいた数名が女の振り回した刃物によって負傷してしまったらしい。


あれだけ人垣ができていたから不思議ではないが、そのあと逃げた野宮さんを女は追っている。

この時に野宮さんは鞄を落としたはずだが、今朝は手に持っていた。


そう考えるとやはり土日の間に少なくとも学校側と何かしらの話はしているだろうし、恐らくは警察も接触していると思われる。


(やっぱり野宮さんに直接聞いてみるしかないか)


トラウマになっている可能性もあるので正直気が引けらが、下手をすれば俺と妹が事件の当事者になっていたかもしれないのだ。


背に腹は変えられないし、早速今日の放課後にでも聞いてみるとする。


まあそれでもやっぱりニュースとかで何も情報が出ない以上野宮さんからも有益な情報は得られないだろうなあ。


『えぇー皆さん、今日は晴れましたが最近雨ばかりで…』


校長の無駄に長い挨拶につられるように一度小さく欠伸をして、俺は体育座りしたまま頭を腕と腕の間に埋めるようにして目を瞑った。





放課後、と言うにはまだ時間は早いが。

午前中授業だったので普段昼休みに入る時刻になると共にその場で解散となった。


部活動も15時までと明るいうちに生徒を返す方針のようだ。


そんな学校の思惑とは裏腹に、クラスメイト達はカラオケやショッピングモール、今話題のスイーツを食べにこうと所々で盛り上がっては少しずつ数を減らして行った。


俺はというと朝野宮さんが迎えに来ると言っていたのでそのまま教室で待機している。


「………。」


静かだ。


まあ俺以外誰もいないし当然といえば当然か。

部活連中も今は食堂や付近のコンビニで昼飯の時間だろうし。


「トイレぐらい大丈夫か。」


野宮さんはまだ来る雰囲気でもないので、今のうちに用渡しておこうと席を立ち教室を出た。





「ふぅ〜スッキリすっきり」


トイレから戻り教室のドアを開こうとした時に違和感を覚える。


「あれ、俺ドア閉めたっけ?」


ほんの数分前のことだがうまく思い出せない。

教室には俺ひとりだったし、貴重品はロッカールームに置いてあるのでわざわざドアを閉めるなんて面倒くさいこと過去の俺がするはずない。


そこまで考えたが、まあいいかとの思いが勝ち気にせずドアを開ける。


「ん?」


一見して教室に変化はない。


俺の机の上には変わらず鞄が置いてあるし、電気もついたままだ。


「なんだこれ」


しかし1点、明確な変化がそこにはあった。


というより落ちていた。


教室の後方、最後尾の机と後ろの黒板や棚との間のスペースにポツンと布のようなものが落ちている。


落ちているものが何かを確認するために俺は近づき拾い上げようとしたが、手に触れる前にその正体に気づいた。


「……タイツだ。」


そう、それはタイツだった。


薄い茶色?ベージュというのかは知らないがとにかくタイツだ。


「落とし…ものだよな…」


一応職員室に届けるか?という良心が浮かぶが、そもそも俺が触れていいものかを考える。


………流石にダメか?


職員室にタイツ片手に入っていく自分を想像するが、何回シミュレーションしても俺が盗んだとかよからぬことに使ったと誤解される結末しか思い浮かばない。


クラス担任で英語担当でもある新田にった先生ならギリギリ誤解なく行けるかもしれないが、もしいなかった場合のリスクが高い。というか居たとしても疑われた時のリスクが高い。


「悩んでも仕方ないし、とりあえず棚にでも置いとくか。うん、そうだな。そうしよう。………」


俺は床に溶けるように落ちたタイツを拾い上げ…


そっと元に戻して、廊下に顔を出して左右を確認する。


ふぅ…と息を吐いてからタイツの元へと戻ると今度は片膝をつき、サッと右手で拾い上げてそのまま鼻元へ近づけてスンと鼻を鳴らした。


「…………。」


なるほどなあ。はぁー、そうなんだなあ。


右手に触れる感触を少し、ほんの少しだけ確かめながら棚に置くために立ち上がった。




「ねぇ」




それは聞き覚えのある声だったが、朝のものとは随分印象が違った。


声のした方向に硬直した体をギコギコと向けると、隣の席の隣人、立花たちばなあきがニヤニヤしながらドアにもたれかかっていた。



「それ、私のタイツなんだけど」



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