白薔薇①
次話の予約投稿の日時を間違えてしまっていたので、15日に白薔薇②
16日に3話分投稿します…。
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「………。」
窓の外から聞こえる蝉の鳴き声と、左半身から感じる圧迫感に耐えかねて目を覚ます。
窓から入ってくる光の具合からして…時間は10時…いや11時くらいだろうか。
転んだまま首を左側に捻ると、ほぼ真横に思緒姉ちゃんの顔があった。
(……暑い。)
野宮さんと立花さんの一件から早一週間が経とうとしていた。
あれから野宮さんと立花さん、どちらとも連絡は取っていない。
なんとなく、その方がいい気がしたからだ。
そうして今俺は、思緒姉ちゃんに甘やかされる自堕落な日々を送っている。
…まあ、それは嘘だが。
こんな風に昼夜逆転しかけているのにも事情があるのだ。
その理由は失踪した養護教諭、藤本の捜索。
人や闇に紛れやすい夜、俺はまことと共に藤本を探している。
まことは当初藤本を探すことに消極的だったが「はる君一人だと心配だから一緒に探してあげるよ。」と言って協力してくれている。
「……。」
俺はもう一度、隣で気持ちよさそうに寝る姉の顔を見た。
思緒姉ちゃんが最近おかしい。
いや、思緒姉ちゃんは最初から色々おかしくはあるがこの頃は特にその行動がおかしいのだ。
普通であれば俺が夜遅く帰ってくるようなことがあれば健康に良くないとか夜遊びはまだ早いとか…そんな理由で俺をベッドの中にひきづり込んで来る。
しかし最近はそんなこともなく、むしろ俺が家に帰ってきた後に思緒姉ちゃんが帰ってくる始末だ。
23時以降は補導される可能性があるから俺は22時には家に帰ってきているが、思緒姉ちゃんは遅い時だと日を跨いだあたりで帰ってきてお風呂にも入らず俺のベッドに侵入してくる。
母さんと父さんに聞いても「まあ思緒なら大丈夫でしょ。」なんて呑気なことを言っていたが、俺は姉のことが心配でならなかった。
もしや何か事件に巻き込まれているのではないかなんて考えてから、事件に巻き込まれているのは自分の方か…なんて、くだらない自問自答をするくらいには心配している。
そんなことを考えながら天井に視線を移ししばらく経った頃、枕元でメッセージアプリの通知…通話の着信音がワンコールだけ鳴って切れた。
「……?なんだ?」
スマホの通話でワンコールなら詐欺か何かだと思うが、流石にわざわざメッセージアプリ内の通話機能でそんな回りくどいことはしないだろう。
首を右に捻ってスマホを見ていると、またワンコールだけ鳴って静かになる。
「……悪戯か?」
思緒姉ちゃんに拘束されていない右腕を使ってスマホを手に取って画面を見る。
「…え。」
画面に表示されていた2件の通知、そのどちらにも玉波先輩と書かれていた。
流石に2回も続けてかかってくるのは悪戯とは思えないし、こちらからも通話を折り返してみる。
「きゃっ!?」
……切られてしまった。
そして…なぜか玉波先輩の声が窓の外から聞こえた。
「……。」
そんなまさかな、なんて思いながらも俺は窓の外が気になる。
窓の外を確認するには左半身の拘束を解かなければならないが…
思緒姉ちゃんを起こして外を見るか?
いや、そんなことしたら思緒姉ちゃんと玉波先輩が邂逅してしまう。
あの人普段の言動の割に人見知りだし泣き虫だからなあ…。
思緒姉ちゃんに圧をかけられたら耐えられないかもしれない。
(あぁそうだ、真実に確認してもらうか。)
確か今日真実は部活もなくて1日外に行く予定も無かったはずだ。
この時間帯ならまず間違いなくリビングでドラマの再放送でも見ている。
(よし、そうと決まればさっ
ピンポーン…
俺の思考を遮って、インターホンが家の中に響いた。
「…。」
1階から真実の「はーい。」という声が聞こえ…
少しの間沈黙。
それから猛スピードで階段を駆け上がる音がしてから俺の部屋のドアは開け放たれた。
「お、おおおおお兄ちゃん!!!!」
顔だけ持ち上げて妹の表情を見ると、来訪者がが誰なのか確信できる。
なんというか「良いもん見れた!」と、そう顔に書いてあるのだ。
「せ、聖女様だよ聖女様!」
…1年生にもその呼び名が浸透してるのかと思いながら俺は横で眠る姉を起こす。
最近は思緒姉ちゃんを起こすのも俺の仕事だ。
「……うぅん…ハル君…?」
「思緒姉ちゃん、俺もう起きるよ。思緒姉ちゃんは寝てても良いから。」
「…そう。」
思緒姉ちゃんは俺の腕と脚を解放して、また眠りにつく。
どうやら相当疲れているようだ。
(……さて、第一関門突破だ。)
とりあえず思緒姉ちゃんと玉波先輩が出会すのは避けたい。
そのためにも思緒姉ちゃんにはもうしばらく惰眠を貪ってもらわないと困る。
次は…玉波先輩がうちに来た理由を聞かないとだな。
「お兄ちゃん、それで下降りるの?」
「え?」
部屋を出ようとした俺を真実が呼び止めた。
その表情には若干の困惑が見てとれる。
俺の今の格好はパンツにシャツという下着姿、なるほど…たしかにこんな姿玉波先輩には見せるわけにはいかないだろう。
とりあえずズボンだけ履いて1階に降りる。
「…あっ!い…家内!ひ、久しぶり…。」
「…。」
玄関に立っていた先輩は、緊張しているのか顔を赤らめながらこちらに手を振っている。
「何しに来たんですか?」なんて無粋なこと聞けない!
先輩は白地に花柄のワンピースを着て、その羽のような白い髪をサイドアップで纏めている。
見るからにお出かけモードだ!
しかし、理由を聞かないままでは話が進まないので俺は大人しく先輩に質問する。
「え、えーっと先輩…今日は何しに…。」
「ご、ごめんね…家内!きゅ、急で迷惑だったら帰から!……そ、それで…も、もし良ければなんだけど…。」
玉波先輩は視線を泳がせモジモジしながら言葉を続けた。
「一緒に…お出かけしましょ。」




