タイツ②
立花あきは俺と同じクラスの女子で、席も隣同士だ。
確か出身中学も同じはずだがそこまでの面識は無く、同じクラスになったのも高校になってからである。
教員からの評価はあまり高くない。
というのも彼女は授業中によく寝ているからだ。
テストの点数こそ高めだが、普段の平常点は絶対低い。俺と同じようなタイプだ。
実際俺も席が隣になってからよく彼女の寝ている姿を目にしている。というか授業中にほぼ寝てるので休み時間か登下校、どちらかぐらいでしか起きている姿を見たことがなかった。
「邪魔、ここ私の席だから」
机に手をついて催促する立花さん、やけにここの部分が強調されていたがまあ事実なので特に不思議には思わない。
「家内君、本当なんですか?」
「え、本当だけど…」
なぜ俺に聞くんだ…できれば巻き込まないで欲しい。周囲を見れば皆の注目がこの二人に集まっている。
雰囲気的には好奇心と恐怖で半々だが。
「そうですか、それなら私は自分のクラスに戻ります。家内君は部活に所属してませんでしたよね?それなら迎えに来ますので放課後も一緒に帰りましょう」
「なっ…」
俺からの返事を聞くこともなく、席を立った野宮さんは立花さんを一瞥して教室を出て行った。
シーンとしてしまっていた教室に少しずつ活気が戻ってくる。
立花さんはチッとひとつ舌打ちをして鞄を机の横にかけるといつも昼食を共にしている女子生徒達の元へ行き、そのまま一緒に教室を出て行った。
そのタイミングで幾人かの視線が俺に向いていることに気づいたが、俺は逃げるようにして体育館へと移動を開始する。
(何だよさっきの、あの二人絶対仲悪いじゃん!)
野宮さんは一見気にしていないようにも見えたが、明らかに立花さんが来てから雰囲気というか立ち振る舞いが変わったし立花さんに至っては敵意を隠そうともしていなかった。
立花さんの機嫌が見るからに悪かったのが、単純に席を取られていたからとは考えにくい。
姉が言っていたが、他人同士の喧嘩ほど面倒くさいものはない。特に仲裁するような立場になったりすれば自分が損をするだけである。
大人であれば妥協点を金銭という形で設定することも可能だろうが、俺たち学生にそれは無い。
ふたり、もしくはどちらかの集団が納得するまで話し合わなければならないし結局均等で平等な解決などあり得ないのだ。
あのふたりに何があったかなんて知らないが、俺としてはなんのいざこざもなく過ごすことが妥協点だ。
学年で噂の優等生と寝てばかりの隣席、普段の関わりも無さそうなふたりであるだけにどちらかを避けて過ごすこともできそうではあるが…
俺の勘が警告と言わんばかりに脳内で鳴り響いていた。
あのふたりどちら方でもより強く関われば、まず間違いなく両方ついてくるし面倒くさいことになると。